新妻ですが、離婚を所望いたします~御曹司との甘くて淫らな新婚生活~
階段を上りながら、まるでアルバムをめくるように次々と思い浮かぶ。

真剣な顔。笑った顔。照れた顔。起き抜けの少しあどけない顔。

いつだって私を気遣ってくれる優しい声。……自分から触れることは叶わなかった、意外と節ばっていて男らしい大きな手。

大好きで大好きで、だからこそ、もうそばにはいられないひと。

今、こんなにも強く想っているのに。けれどいつか、忘れられる日がくるのだろうか。

いっそのこと……彼に惹かれる前の自分に戻れたら、なんて。

そんなふうに考え、自嘲的な笑みが浮かぶ。

彼を忘れることも、過去に戻ることもできやしないというのに──私はなんて、馬鹿なことを考えているのだろう。



(れい)……っ!」




ふと聞こえた声に、びくりと足を止める。

顔を上げた私は、階段を上りきったその場所で息を切らし、肩を上下させながら立つ人物の姿に目をみはった。



「……皐月(さつき)くん」



私の口から、ポツリと彼の名が漏れる。

慌てていたのか今朝家を出たときと同じスーツ姿のまま、眉を寄せた困惑を表す顔。どこか焦ったような声。

こちらを見下ろす彼の表情と声音だけで、恐れていたことが現実となってしまったことを知った。

じり、と無意識に後ずさる。ここがまだ、階段の途中であることも忘れて。



「──礼!!」



身体が後ろへ傾いて、浮遊感が心臓をひやりと包み込む間際。

大好きな人が自分を呼ぶ、切羽詰まった声が聞こえた。
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