初恋のキミに約束を
眼鏡の苦悩と渡りに船 ~萌香side~
サーモンピンクのシフォンワンピースに、ベージュのローヒールパンプスを合わせて久しぶりに祖父母と食事に出かける事に。

両親を亡くしてから、父方の祖父母に引き取られた私。

母方の祖父母は私が産まれる前に他界していたから、身寄りは都築の祖父母だけだった。

「お祖父ちゃん、家族で外食なんて久しぶりだね?」

「そうだな、いつも美味い物を作ってる絹子にも、偶には上げ膳据え膳で休みをやらんとな」

そう言って、お祖母ちゃんと顔合わせる。

「萌香ちゃん、今日は功さん達の御家族も一緒にお食事するのよ。櫻子さんと道子さんも久しぶりに羽を伸ばすって言ってたわ」

「賑やかで楽しそう。私も小母さん達とは久しぶりだし、お祖母ちゃんもゆっくり出来て良いね」

楽し気な祖母ちゃんの笑顔に、胸の辺りがホッコリする。

そんな祖母ちゃんの様子に、お祖父ちゃんも今日はとても上機嫌だ。

食事会の場所は老舗の料亭にある新館で、脚の調子が良くないお祖母ちゃんでも大丈夫な様に洋式のデーブル席だった。

ビックリしたのは席の配置、私たち家族の対面が桜葉社長家族で、仲人席に会長夫妻が着く。

私の目の前が裕くんが居て、何となく胸の辺りがザワつく。

濃紺の三つ揃いのスーツ、薄いブルーのドレスシャツにネイビーのネクタイを合わせて、ビジネス雑誌のモデルの様だ。

「裕一君、忙しいのにわざわざ済まないね」

お祖父ちゃんが、裕くんに声をかける。

わざわざって事は、この為に裕くんを誘ったって事?

「萌香ちゃん、随分と綺麗になって。お義父さんや大智さんは会社での事とか、教えてくれないし」

「そうよね、絹ちゃんに聞くだけだったから今日は楽しみにしてたのよ。ああ、やっぱり女の子は可愛いわ。萌香ちゃん、近いうちにお買い物とか行きましょうね。道子さんも行きたいわよね?絹ちゃん、良いかしら・・・」

「もちろん、良いわ。結納の事も有るし、色々と打ち合わせしましょ」

結納?

えっ、まさか・・・今日の食事会ってお見合いなの?

・・・って事は、相手は裕くん?

って、言うか、決定事項みたいだよ・・・。

目の前に座る裕くんは、余裕の表情で・・・さっきまで美味しく頂いていたお料理が、何だか味が分からなくなってしまった。

みんなで盛り上がってるけど、私1人何も知らされてないの?

私の気持ちはどうでも良いの?

何だか、やる気せない気持ちになってしまった。

確かに、好きな人が居るのか?

・・・と聞かれれば、裕くんしかいないのだけれど。

裕くんのお見合い相手が私なのは嬉しいけれど・・・じわじわと追い詰められて行くような感覚が、少し息苦しい。

裕くんならいくらでも好条件の女性を選べるはずだし、歳の差のある私が相手では釣り合わないと思う。

昔からのお付き合いで持ち上がった縁談なのだろうが、裕くんはどう思っているのだろうか?

裕くんの気持ちが私に無いまま、結婚なんて嫌だ。

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