寒い冬が終わり、春風が吹きはじめた5月のある日の朝、ゆきはLINEの通知に起こされた。

『おはよう。今日はゆっくり寝てたね。シャツにアイロンがかかっていなかったから自分でかけたよ。今夜も帰りは少し遅くなるけど、起きて待ってなさい。』

読んだ途端、ゆきの顔は青ざめた。

LINEの送り主はゆきの彼氏の青山尚貴だ。27才、某大企業の社長の御曹司である。ゆきが友達に誘われて行った1年前のパーティーでたまたま出会い、お互いに一目惚れしてその後すぐに付き合った。

ゆきが尚貴と一緒に住みはじめたのは1ヶ月前のことだった。

尚貴が父親に与えられた都内の一等地にある美しいマンションの部屋はあまりに広く、一人で住むにはもったいないからと招いてくれたのだ。

家のことは家政婦を雇うからなにもしなくていいと尚貴からは言われたものの、2人だけの場所であって欲しかったゆきは家事を全部任せて欲しいとお願いしていた。ゆきさえ良ければと尚貴も喜んでその願いを聞き入れ、圭人が忙しく働く一方、ゆきは自慢の顔とスタイルを生かしてモデルの仕事をしながら、家事を完璧にこなしていた。

でも、昨日は。

モデル仲間と飲みに行って遅くなり、酔っぱらって帰ってきたゆきは尚貴のシャツにアイロンをかけることもお弁当を用意しておくことも忘れてソファに倒れ込んだ。そこまでは覚えてる。そのあと帰ってきた尚貴がベットまで運んでくれたのだ。

「どうしよう・・・」

帰りが遅くなるときはいつも先に寝ているようにと気遣ってくれる尚貴が起きて待ってろなどと言うのははじめてのことで、本当に怒らせてしまったに違いない、とゆきの不安はどんどん大きくなるばかりだった。