夜11時半頃、尚貴が帰宅した。

「・・・おかえりなさい」

「寝室に来なさい」

聞いたこともないような冷たい声だった。

さっさと寝室に入っていった尚貴に従い、ゆきはのろのろと部屋に向かった。

入ると尚貴は既にベットの端に腰掛けて、ネクタイを緩めていた。

「どうして俺が怒ってるかわかる?」

ドアの側に立ち尽くすゆきに静かに問いかける。

「シャツ・・・アイロンかけてなかったから・・・あとお弁当も。ごめんなさい」

「そうだね。でもそれだけじゃない」

「え?」

「昨日はモデル仲間と飲みに行くんって言ってたよね」

「うん」

「愛梨ちゃんのストーリーにゆきと男が寄り添って飲んでるのが写ってたんだけど」

愛梨はゆきのモデル友達で、尚貴と出会うきっかけとなったパーティーに誘ってくれた人でもある。

「やだ!違うの!それは・・・!」

確かに昨日、4人のモデルと飲みに行ったバーで同人数の男グループに声をかけられ、ゆきはその中のリュウという、猛アプローチをかけてきた男としばらく話していた。

「LINE交換したの?」

「・・・」

「したのか」

「ごめんなさい・・・浮気とかそんなじゃなくて・・・ただ最近尚貴さんが忙しくて、寂しくて・・・」

「そうか」

冷ややかな目。

「じゃあ、別れる?」

「嫌!!!それだけは嫌!!すぐブロックするから、もう2度と男の人と飲んだりもしないからぁ・・・」

ゆきの大きな瞳から涙が溢れ、声がかすれる。

「確かに寂しい思いをさせてきてしまったかもしれない。でも俺には仕事の責任があるから、これからもそういう思いをさせてしまうと思う。それでも別れたくない?」

「うん。絶対別れない」

「寂しくても他の男を求めないって約束できる?」

「できる」

「そうか。じゃあそれをまず体に覚えさせないとね」