アイネクライネ
救急車の音が無機質で真っ白な空間に響き渡る。
いつもの音だ。

「先生!!病室が足りません!!!!!」

廊下に響く靴の音の後に聞こえてくる女性の声。

「……仕方ない。他の病院に受け入れてもらうしかない……」

悔しそうな男声の後に"ドンッ"っとコンクリートを叩くような音が聞こえる。

まただ、また誰かの"居場所"を奪ってしまった。

こんな事が続くのならあたしは石ころにでもなれたらいいのにな。

そうしたら、幸せを知る事も勘違いも戸惑いも誰かの居場所を奪うこともない
あなたのことも知らないままでいれたのに。

「久しぶりだね」

そう言って微笑むあなた

「うん」

約束のない約束。
噴水のある公園で、会えた時に会う。

あなたにあたしの思いが全部伝わってほしいのに
誰にも言えない秘密があって嘘をついてしまうのだ。

「結婚してください。」

そう言ってくれても、あなたが思う以上にあたしは意気地なくて

「今は、まだ答えられないの…」

そんな風に逃げるようにしか答えられなくて傷つけてしまう。

何年たっても答えられないまま時間だけが過ぎて
タイムリミットが近づく
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