夜をこえて朝を想う
プロローグ

side S

第一印象は綺麗な子。

街灯の灯りの下でそう思った。

「やだ、あの人、足も速い!手も早いんだろうけど…格好いいだけじゃないのね。」

スーツ姿で走って行った男を見て、そう言った。

思わず、吹き出す。

次の印象は、面白い子。

店に入って正面から見ると第一印象が尚更。

たまたま、横に居合わせた

置いていかれたようになった俺たち

ラッキーだな。美人で。

「あら、さっきは暗かったから…もしかしてって思ってたんですけど…ハンサムですね!ラッキーだわ、私。」

同じ様に思っていたことにもだが、

それを口に出して言う彼女の計算のない素直さにも

好感が持てた

「ハンサム…って…」

「今時でしょ?でも、部チョーさんはそんな感じ。ハンサム顔!」

悪びれる様子もなく、そう言った

「褒めて…んの?」

「はぁい、もちろん。」

緩く、気の抜けた返事にこっちも気が抜ける。

「俺も。」

彼女は食事の手を止めて、少し首を傾げて俺を見た。

「俺もラッキーだった。綺麗な人で。」

「お上手ですわ、部チョー。」

茶化しながらも、にっこりと笑った。

褒められて、恥ずかしがるでもなく、照れてもない。

こんな場面で相手を見てにっこりと笑える人はなかなかいない。

慣れているのか、綺麗だと言われる事に。

それとも、社交辞令と取ったのか

性格か。

何にしても…ラッキーだった。

彼女は、話していて楽しい女性だった。

綺麗なだけでなく頭もいい。

まぁ、吉良君と大学の同級生と言っていた。

学歴的にも…そうなのだが。

勉強だけが出来るタイプではない。

「悪かったね、付き合って貰って。」

「私も、誰かと居たかったので。それが…美味しいお料理に美味しいお酒…そしてハンサムな部チョー。もうね、最高。」

また、にっこりと笑う。

笑うと目に長い睫毛がかかり、頬に数本入る縦のえくぼが…

まるで花が綻んだようで…

つい、見入ってしまう。

“最高”そう言ったのは、本心なのか

俺に気を遣わせない為だったのか…。

「今日はもしかしたら、夢なのかしらと思う程です。」

そう言って、俺の空になりそうなグラスを見て

「次、何飲みます?もう少し、飲めるでしょ?」

可愛らしくそう言う彼女に、酒も進んだ。

久しぶりだな。

こんなに…

こんな風に…過ごすのは。

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