極上御曹司のヘタレな盲愛
そうか、そうだよね。

まだ花蓮は結婚はしていない、婚約しただけだもんね。
花蓮の気持ちを今から変えたっていいよね。
気持ちを変えられなくても、子供の頃からの大河の恋心が、花蓮に届くだけでもいいかなぁ、と心から思ってしまった。

「うん!今からでも遅くないかも!今、気持ちを向かせるのはとっても大変で難しいかもしれないけど、精一杯頑張ってみなよ!後悔しないように!」

私は大河の目を見つめ、大河の手を片手でギュッと握り、もう片方の手で小さくガッツポーズをして見せた。

大河はなぜか少し顔を赤らめ、戸惑ったように目を逸らして、暫く視線を彷徨わせていたが、再び私に目を戻すと…。

「ああ、頑張るよ。じゃあ、多少強引な手を使ってもいいかな?」
と、いつもの不敵な笑みを見せて呟いた。

そうよね、すでに悠太に遅れをとっているんだから、多少強引に行くくらいじゃないと、二人の間に入るのは難しいよね。

「うん、犯罪じゃなかったら、少しくらい強引でもいいんじゃない?頑張って!」

「じゃあ、桃に1コ頼みたい事があるんだけど…いいか?」

これまで、私が避けてきたせいでもあるけど、嫌われていると思っていた大河に頼み事をされる事なんて一度もなかったので、なんだか少しだけ嬉しくなってしまった。

だから私は愚かにも……内容を確認する事なく、二つ返事で引き受けてしまったんだ。

「うん!私にできる事なら、なんでもするよ?」

ニコって笑った私の顔を見て、大河は嬉しそうに言った。

「何でも…?」

「うん、私にできる事なら…ね」

「いや、桃にしかできない頼み事だから…」

「⁉︎」

姉の私にしか出来ない頼み事って何だろう?
花蓮を呼び出す事なら光輝に頼めばいいし、大河が呼べば花蓮は来るだろう。

いったい、どんな頼み事だろう…。

考えていたら…不意に大河に腕をグイッと引かれ、座っていた岩から滑り落ちそうになった。

「きゃっ!危な…!」

川に落ちる!と目を瞑った瞬間…。
私は大河に抱きしめられていた。

「⁉︎」

驚いて目をまん丸にして顔を見上げる私の耳元に、その形の良い唇を寄せて…。

私の天敵は、綺麗なバリトンボイスで言ったのだ…。


「桃……。俺と結婚してくれ」


そして。
私の唇に…『チュッ』と…キスをしたのだった。


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