可愛い女性の作られ方
三.初めての週末――好きだけど好きじゃない
週末まで、約束したことはなるだけ忘れることにして過ごした。

そうしないと、平常心でいられない。
加久田の奴はなにを企んでいるのか、会社ではいつも通りの物わかりのいい、有能な部下だった。
別段、メッセージやなんかでプライベートなことをいってくることもない。
なんか拍子抜けするほどいままで通りで……ちょっと怖い。


金曜日。
いつも通り人気のない、屋上でひとり弁当を食っていたら、加久田がコンビニの袋を片手にやってきた。

お昼はなにか用がない限り、弁当詰めてきてひとりで食っている。
私がここで弁当食っているの知っているのは、加久田だけだ。
だいぶ前に、ひょんなことでばれた。
それ以来、加久田はなぜか時々、ここに来る。

「先輩の今日のお弁当、なんですか?」

「……昨日の残り」
 
会社とはいえ、多少プライベート空間に近いような環境で、加久田とふたりっきりになるのは、なんか気まずい。

「なんか答えになってない気がしますが。
……やっぱり先輩のお弁当は、美味しそうですね」

「……褒めたって、分けてやらないからな」

「ケチ。
まあいいや。
今晩は先輩のごはんだし」
 
私の隣に座ると、買ってきたおにぎりの包みを開けた。

「……やっぱり来るのか?」

「当たり前でしょう?
一回帰ってからいきますから、美味しいごはん、作っててください」

「……保証はしない」

「やっぱコンビニのおにぎりは味気ないですね。
このあいだ、先輩が握ってくれたおにぎりの方がよっぽど美味しい」

「……先、戻ってるな」

「……はい」
 
一度も顔を上げないまま、食べかけの弁当に蓋をして立ち上がる。
戻りながら、顔が熱くなってる自分に気が付いた。
誰にも見られたくなくて、階段を降りる途中で立ち止まる。
加久田がまだ、降りてこないことを祈りながら、心臓の鼓動が治まるように、深呼吸を繰り返し続けた。


気を抜くと不安定になりそうな気持ちを抑えつけて、どうにか午後の仕事をこなす。
定時を少し過ぎても、加久田はまだ、仕事をしていた。

「加久田。
あとどれくらいで終わりそうか?」

「そーですね。
一時間、といったところでしょうか」
 
画面を睨みながら、私の方を振り向きもしない加久田。

「このデータ、なんか細かい修正が多くて。
手間取っちゃってます」

「半分よこせ。
ふたりで手分けしてやった方が早い」

「んー、というか、提出は月曜日でいいんですよね?」

「……ああ」

「なら、先帰っちゃってください。
俺、終わったら直でいきますから」

「なっ……!」
 
くるりと振り返った加久田は、いたずらっ子みたいに笑って、慌てている私を見た。
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