偽婚

提案



あれから1週間。

私は元の元気を取り戻し、今日もしっかり引っ越し代を稼ぐために出勤する。



「あ、おはよう、アンナ」


声をかけてきたのは、『ティアラ』の一番の古株で、同い年のナナ。



「ねぇ、体入してたよね。見た?」

「可愛かったよね。あの子、18だってさ」

「18かぁ」


ナナはのけ反るように椅子の背もたれに背をつき、取り出した煙草に火をつけた。



「うちらなんてもうおばさんだよね。私、最近、ずっとこのままでいいのかとか色々考えちゃうもん」


23歳。

一般社会では新入社員も多い年齢だけど、若さが売りのこの店では、私たちはすでに旬を過ぎたような扱いだ。



「ナナ、店替えすんの? それともキャバ上がるつもり?」

「わかんないけどさぁ。アンナはそういうこと考えたりしない?」

「うーん。どうかなぁ」


確かに、ずっとこのままでいいわけはない。

けれど、今の私は引っ越しのことで頭がいっぱいで、他のことにまで気がまわらないというのが正直なところだった。


そんな私に、ナナはバッグから取り出したものを見せる。
< 8 / 219 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop