アンバランスな苦悩

外泊

外泊なんて
何年ぶりだろう

真っ暗な廊下を歩きながら思う

外泊っていうほどの
外泊じゃないけど

自宅のベッドで寝ないのは久しぶりな気がする

足音をたてないように
居間に入り

ソファに座ったところで
キッチンの電気がついた

「何時だと思ってるのよ!」

マコが睨みつけた

「ドライブしようと思ったが
財布と免許証を忘れたから

スミレに夜這いをかける計画に
変更したんだ」

「嘘は言わない
瑛ちゃんが夜這いなんか
しないでしょ

見え透いた嘘は聞きたくないよ」

「スミレは俺が
夜這いすると信じてるぞ」

「マコは信じてない」

マコは冷蔵庫から
ビールを出すと
俺に手渡した

缶ビールは冷たくて
冷えている体には
ちょっと
酷だった

「また喧嘩?」

「スミレの寝顔を見てから
寝ようとしたら

お袋に往復ビンタされた」

「しばらく来るなって言ったでしょ?
光ちゃんみたいに
我慢できないの?」

「我慢できてれば
こんなことにはなってない」

「それもそうだ」

マコはビールをぐびぐびと飲んだ

外にいるときのマコとは
大違いだ

着飾らず
猫をかぶってないマコは

機嫌の悪いスミレみたいな態度だ

スパッと
言葉を言ってくれるから
相談相手には
適しているが

はっきり言う分
傷つくことも多い
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