幼い私は…美人な姉の彼氏の友達の友達に恋をした

2、友人の実態は内緒


 陸は要に言われた通り、電車に乗り大学の最寄駅に着いたところで名前を呼ばれた。

「りーーーくーーー!!」

 両手いっぱい広げて陸を呼ぶのは、大学で知り合った友人のシャルロット。実はシャルロットも要と同じようにフランス人の母と日本人の父を持つハーフだった。

 そして彼女も日本の五指に入る財閥の令嬢。その名も、龍神(りゅうがみ)シャルロットという。
 龍神財閥の令嬢であるシャルロットは五カ国後を操る天才美女と有名で、名前負けも全くしない。初めて会った時、互いに自己紹介した瞬間、有り難い名前過ぎて陸はひれ伏したくなったほどだ。

 いや。軽く陸が頭を下げたあたりで、シャルロットはたまらず大爆笑し、一気に打ち解けれたのだ。


 そして陸の初恋の人である要も、家名は龍鳳寺りゅうほうじだから、負けてはいない。が神話ラブな陸にとっては、若干名前は『龍鳳寺』より『龍神』の方が好きだったりする。

 容姿も対極で、要はどこかヒョウっぽいが、シャルロットは愛玩犬のようで、薄い色合いの金髪は頭部からパーマがかけてあり、ふわふわと風になびき、限りなく金色に近いブラウンの瞳は常にウルウルとし懇願系。

 守ってあげたいタイプ、あくまで見目は。しかしそこは大財閥の令嬢だ。彼女は自分の美少女っぷりを理解していて、大学を裏で牛耳っているほどの、強かさと金を持っていた。

 そんな彼女の闇を、陸は知らない。あえてシャルロットは知らせていないのだ。


「シャルロット! おはようっ」

「もう、待ちくたびれたよぉー。一ぱふ だからね!」

 一ぱふ。これは胸に顔を埋める遊び…らしい。シャルロットには婚約者がいる。シャルロットも陸に負けないほどの巨乳であるが、自分では巨乳の有り難みが分からないと。確かに。

 婚約者が堪能する巨乳の素晴らしさを、自分でも味わいたいと何故か陸が失態やお願いをした日には、陸の胸に顔を埋める…遊び。名付けて『一ぱふ』が課せられいた。

「陸もいいよ、巨乳味わいなよー」とシャルロットの胸に顔を埋めてみて、本気でヤバいと思った。柔らかすぎる。これは危ない道に迷いこみそうでやめた。

 後、しっかり化粧をしている陸だ、案の定シャルロットの胸をファンデーションまみれにし、土下座して謝った。

 シャルロットは基礎化粧品以外はしないらしい。いわゆるノーメイクなのだ。だからいくら陸の胸に顔を埋めても陸の服は汚れない。
 よってシャルロットのみがする一方的な遊び『一ぱふ』は継続されていた。

「えー待ち合わせ時間には間に合ってるのに、一ぱふなの?」

「たくさん待ったから、疲れたの。だから一ぱふ」

「はーい、了解です」

 どうでもいいやり取りが楽しい。陸とシャルロットは連れ立って歩き、2限目の講義にでる。

 2限目の講義は西洋美術史。陸は何よりもこの講義が好きなのだがいかせん眠い。

 大好きな話でとても興味もあるのだが、90分間暗闇でのスライドショー、プラス単調な教授の話し方だと眠気が襲ってくるのだ。

 眠気と戦いながら、絵画に隠された意図や作者の想いなど、必死にノートをとり、無事に最後まで寝ず、西洋美術史の講義を受け終わった。


「陸ーー、ご飯どうする?」

「今日は親子丼を食べようかな〜、あとアイス」

「賛成! 私は他人丼と、アイス。車で食べていい?」

 車で食事。これもシャルロットと仲良くなってからは当たり前になってきた。シャルロットが愛用している車は、運転手付き、車体が物凄く長い車種で要人が使用している車で、車内は豪華な室内だ。車に詳しくない陸でさえ、これも知ってる。

 車内は革張りのシーツに、ふかふかの絨毯、シャンデリア風の明かりまで付いており、快適過ぎて食事の後、いつも昼寝をしてしまう。

 シャルロットと学食で丼どんぶりとアイスクリームを調達し、長い車種の高級車に乗り込む。


「お邪魔します」

「やだ、まだそんな事を言ってー、陸は頭固いわよね」

「だって、こんな高級車そうそう乗れないんだよ、庶民は!」

「そうなの? 私はこれ以上車内が狭かったら、車に乗れないわ」

 信じられないわーっと言っているシャルロットに、カルチャーショックだ。同じ人間だけど、決して同じ人間ではない。

断言しよう、シャルロットは違う世界の住人だ。違う世界の住人で思い出した。


「そう! シャルロット。実は今日、あの有名人、龍鳳寺 要さんに会ったよ」

 自慢気に話した陸の言動に、何を思ったのか。シャルロットは飲んでいた緑茶を噴いた。

「ギャアァァァァーー、シャルロット!!! 大丈夫!?」

 噴いた緑茶は見事に陸にかかったが、陸は己よりシャルロットの状態が心配で、必死に緑茶の後片付けをしていたからシャルロットのぶつぶつ言っている独り言は聞き取れていない。


「(あの変態いよいよ動き出したみたいね…。キモい、キモい、あの変態根暗野郎…しばきたい)」

「シャルロット? 何か言った?」

「いいえ、何も。それより へんた…ではなく龍鳳寺財閥の御曹司に会ったの?」

「うん。たまたまね、凄く綺麗だった! テレビで見るのとはまた違ってオーラが凄かったよ」

「オーラ?オーラって…(変態オーラか。あぁキモいっ、けど基本 陸の写真一枚、百万で買ってくれるし。この間のはレアだから五百万の値がついたし。いいカモだけど、ギャップがキモい)
 陸は相変わらずお馬鹿さん!!! お茶で服濡れてしまったわ。ごめんね」

「いいよ、お茶だし、すぐ乾くよ」

「陸、服は脱いだら? 代わりの服を貸すわ」

「いいの?ありがとう、そうする」

 カシャン。カシャン、カシャカシャン。下着姿の陸をパシャパシャ写真に撮るシャルロットに疑問。


「…………なんで撮ってるの」

「へんた…ではなく、美しいものは写真に収めたいの」

「いや、下着姿だったよ、流石に消して! 」

「やーよ。これはお宝だもん。私ね、陸に癒されたいの。
(このエロ過ぎるショットなら、奴は一千万出すわね。どうせ写真は…。この間の陸の谷間写真(五百万)を売った後、左手が腱鞘炎になったと聞いたわ。あの変態っ、どれだけしたら気がすむのかしら。あぁキモいわ、あの変態屑野郎)」

 会話をうやむやにされ、昼食は食べ終わる。うとうとしている陸に神の一言が放たれる。

「陸、お昼寝しよっ」

「いいの? いつも悪いよ」

「気にしないで。そうだわ、3限は休講だったの。だからたっぷり寝れるわよ」

 腹が満たされ、うとうと眠い陸は車内とは到底思えないソファーに寝転ぶ。

 食べたらちょっとの昼寝が習慣づいてしまい。脳がシャットダウンされてしまう。ぼんやりした視界に、美少女のシャルロットが満面の笑みでこちらを見ている。


「…シャ…ル…ロッ……ト…、お………す…み」

 陸の思考は夢へと旅立つ。

「可愛いっ」

 シャルロットは眠りに入った陸の頭を撫でて、そっと車を降りた。

 降りた先には正真正銘、全く日本人の血は皆無。東洋人ではあり得ないほどの目鼻立ちが整った色黒の濃い美形で長身の美しい男が立っていた。


「ラースメン。焼き回しをお願いしてもいい?」

「はい、もちろん。
 ですが、シャルロット様…差し出がましいとは思いますが、言わせてください。
 龍鳳寺様をおちょくるのは、ほどほどにされた方がよいかと。
 婚約者として、貴女の騎士として、私は心を身体をシャルロット様に捧げております。ですが、龍鳳寺様が本気で潰しにかかった日には、確実に臓器全てを売りはらわれます」

 真剣な表情のラースメンに、シャルロットはおっとりと笑ってみせた。

「承知の上よ。あの変態は、頭脳、身体能力、他者を惹きつける魅力、見目の艶やかさ、家柄、絶倫…は関係ないわね。
 何一つとして他者に負けていない。総合的に戦ったら、変態への勝ち目はないわ。同じ大財閥と言われていても、あの変態が龍鳳時に生まれた時に、全ての力関係が崩れたのよ」

「はい、存じております」

 しっかりした返事と共に、ラースメンは頭をゆっくり下げた。

「日本だけじゃない。世界のありとあらゆるトップが、あの変態と手を結びたいと虎視眈々と機会をうかがっているわ。
 ラースメン。私はあの変態の唯一にして最大の弱点を手中に収めているのよ。絶対に逃がさないし、手放しはしない」

「陸様は、人形ではないのですよ」

「分かってる、ちゃんと分かってるわ。だから一生の親友になりたいの。
 陸には幸せになってもらいたいから。ラースメンと陸は似てるから好き。裏表のない人って、とても貴重なの、あの変態も理解してるから陸を愛しているのよ。
 もう何年も女と寝てないらしいし、その一途さには感服よ」

 ちょっと驚きを顔にみせたラースメンに、シャルロットはぎゅっと抱きついた。190センチあるラースメンとシャルロットの身長差は30センチ。シャルロットの頭はラースメンの胸にも届かない。

「陸がいるのに。誘惑に我慢出来ず、あの変態が他の女に下半身を差し出してしまう可能性もあるでしょ?
 浮気されたら嫌だし。ほら、男は定期的にマスターベーションした方がいいらしいし。これは手助けよ。陸と一緒に子育てしたいし」

「シャルロット様の考えに水を差し、申し訳ございません」

 ラースメンはシャルロットの唇を撫でながら、色欲を含む瞳で見つめる。合図は一瞬。シャルロットの腰がぐっと持ち上がり、ラースメンが覆い被さる。


 小さな水音と共に、身体が擦れ合う。口づけはさらに濃厚になっていく。


「はぁっ………ラースメン…ホテルいく?」

「夜まで、楽しみにしております」

「了解よ」

 今度は触れ合うだけの軽い口づけをし、身体を離す。そしていつかは親友になりたいと願う陸の元に戻った。

 まだ目覚めない陸に聞いてほしいのか、聞かないでほしいのか、どちらとも言えない感情を心地よく感じながらシャルロットは陸の耳元で囁く。


「…陸、初恋は叶うわよ」


 ぐっすり眠っている陸には、シャルロットの爆弾発言は聞こえなかった。




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