密偵をクビになったので元主のため料理人を目指します!
「主様、私をこの城の厨房で働かせて下さい」

「城で?」

「はい。もちろん皿洗いからで構いません。すぐに料理長の技術を盗んでみせます」

 正直なところ、私は料理と呼べる代物を満足に作ったことがない。
 前世? 前世ではおばあちゃんのご飯大好きっ子でしたが何か?
 でも私にはゆっくりと料理修行に励んでいる時間はありません。一刻も早く主様のため、城の料理をマスターしなければならないのです。となれば#料理長__ターゲット__#のそばで働くことが一番の近道だ。
 たとえ料理が出来なくたって、私は主様の優秀な密偵。不可能なんてあり得ません。おそらく料理技術も密偵技術を習得することと大差ないはず。出来ないことはありません!

「…………サリアが、望むのなら……」

 物事をきっぱり言い切る主様にしてはしては珍しく、煮え切らない口調だった。しかも貼り付けたような笑顔を浮かべている。
 つまりこれは主様にとって望まない結果だったということ。私はそう解釈していた。

「それで、いつから働きたいのかな?」

 城の厨房はいつでも人手不足だと聞いている。望めば直ぐにでも働くことは叶うだろう。しかしその前に、私にはやらなければならないことがあった。

「僭越ながら、一週間ほどお暇をいただけますでしょうか」

「ああ、そうだったね。君はこれまでまともに休暇を取ったこともなかったから、これを機にゆっくり休むといいよ」

「いえ。まずは同僚の素性調査を行いたく思いますので」

「君は料理修業に行くんだよね?」

 やや強め口調で確認されたので、私も主様に合わせて力強く頷いた。
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