密偵をクビになったので元主のため料理人を目指します!
料理を学ぶ
 主様は今頃どのあたりだろう。
 モモはちゃんと見守ってくれたかな。

 不安は尽きないけれど、気持ちを切り替えて私は仕事に励んでいる。そうすることでセオドア殿下と出会ったことも忘れ去りたかった。

 朝が来れば私の出勤時間は他の誰より早い。新人だからという理由もあるけれど、もっと打算的なものだ。
 何事も真面目な印象を植え付けておいて損はない。誰もいない厨房を隅から隅まで観察するのも大切な私の日課だ。
 出勤すると、まずは厨房の掃除から。ここでの私は一番の下っ端、厨房の掃除も仕事の一つとなっている。
 加えて料理長のユーグは綺麗好き。副料理長のマリスは同じ物が同じ場所にないだけで気になる性格だ。
 それなのにカトラ先輩の片づけは大雑把で詰め込むだけ……。となれば朝からいい加減な仕事は許されない。
 掃除を終えると在庫の確認をする。備品の不足や、足りなくなった調味料を補充するのも私たちの仕事だ。
 とはいえ一日で底を尽きるようなものはないけれど、私は毎日入念に残量を調べている。
 毎日確認していれば何がどれだけ料理に使われているか、割り出すことは容易い。

 しばらくしてまずは先輩が。そして副料理長と、料理長が出勤してくる頃には厨房も賑やかになっている。
 この厨房で作られる料理には二種類あって、セオドア殿下たちが口にするような格式高い料理と、私たち城で働く人間が食べる、とにかく量を優先したまかないの二種類だ。
 さっそく料理長は調理に取りかかるので、今日も私は彼の動きを入念に観察していく。

 皮むき業務を終えると、早めの休憩に入った私はいつもの指定席に向かおうとした。休憩室で休むことも出来るけど、世間話というものにはまだ慣れていない。
 それにに、何気なく歩いているようみ見えるかもしれないけれど、城に異変がないか観察もしている。私が居ながら何かあっては主様に合わせる顔がありませんからね。
 そして見回りの成果か、見事に怪しそうな人物を見つけてしまった。

「あの子……」

 怪しい。
 年のころは私と同じか、少し下にも見える。けど、いくら年齢が若く見えても油断は出来ない。私だって立派に密偵を務めていたわ。
 目の前で戸惑う少女も誰かの手先かもしれない。迷ったふりをして内情を探るのは私もよく使う手だ。どこかの密偵なら阻止しておかなければ。
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