冷徹部長の溺愛の餌食になりました
◆また ひとつ



今日の天気は、梅雨の合間の爽やかな晴れ。

窓の外に広がる久しぶりの青空を見ながら、いい気持ちで仕事に励む……はずが。



「はくしゅん!」



オフィスには私の勢いのいいくしゃみが響いた。

それを聞いた向かいの席の馳くんが、こちらに目を向ける。



「どうしたあかね、風邪か?」

「そうかも……」

「引き始めが肝心だって言うし、薬飲んでおけよ」



風邪なんてここ何年もひいていなかったのに……最近浮かれることが多すぎて、気が緩んでいたのかな。



ティッシュを一枚手に取り鼻をかみながら、なにげなく隣のデスクに置かれた資料が目に入る。

それは六本木にある会社の広告案件らしく、『六本木』という文字ひとつだけで先日久我さんと行ったビルの夜景が思い出された。



あの日は、久我さんと夜景を見て、そのまま同じフロアのレストランでごはんを食べて……幸せだったなぁ。

久我さんが人前で抱き寄せてくれるなんて、夢にも思わなかった。



少しだけ、私自身になにかを感じてくれたと思ってもいいのかな。なんて、ついまた浮かれてしまう。

けどふわふわとした気持ちで熱を出してちゃ意味がない。気をつけなくちゃ!



「霧崎さん、ベイドードリンクの山内さんがいらしてるそうです」

「あっ、はい!今行きますので応接室にお願いします」



心の中で気を引き締めると、私は鼻をかんだティッシュを捨て、軽くメイクを整えて応接室へ向かった。



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