【B】箱庭の金糸雀 ~拗らせ御曹司の甘いぬくもり~

8.流れる砂時計 - 光輝 -



「如月さん、今日は午前中から少し出掛ける用事があります。
 夕方の入籍の準備と結婚式の打ち合わせ時間には合流できると思います。
 
 14時頃に聖仁を迎えに行かせます。出掛ける用意だけしておいてください」


キサと同棲を始めてから数週間がたったある日。
俺は朝食をとりながら、如月に断りを入れた。


「14時には出掛けられる準備をします」


如月は感情があるのかないのか、抑揚のない声で小さく呟いた。

「旦那様、お嬢様のお支度はこの三橋にお任せくださいませ」

三橋の言葉と同時くらいに、部屋に鳴り響くチャイム。
立ち上がって応対しようとすると、それよりも先に反応した三橋がインターフォン越しに応対を始めた。


「旦那様、竣佑様がエントランスにお見えです」

弟の名前を告げる三橋。


「行ってきます」


最後の一口のハーブティーを飲み干すと、
手を合わせた後、声出して立ち上がる。

すると俺を見送るように如月も立ち上がって玄関のドアの方へと近づいてきた。



「いってらっしゃい」

義務的に告げられる言葉と共にお辞儀をする如月。
そしてその後ろ、三橋も丁寧に俺を送り出してくれた。

エレベーターで階下に降りると、階下のロビーには竣佑が姿を見せていた。


「おはよう兄さん」

竣佑と合流した俺は、二人でエントランスを出ると竣佑の車へと乗り込んだ。
運転免許を取得していない俺と違って、竣佑は早々に取得していた。


「とりあえず真梛斗の家でいいんだろう」


竣佑が運転する車の助手席に乗り込むと車は、真梛斗の家の方へと動き出した。


「如月さんに声かけなくてよかったの?
 如月さんは……」

「そうだね。
 俺も声をかけるかどうか迷ったよ。

 だけど今はあえて波風を立てたくない。
 それに今日は会社関係者も多い。

 如月にあんまり気を遣わせたくない」


そう紡ぐと運転席から竣佑の溜息が零れる。


「真梛斗も真梛斗だけど、兄さんも兄さんだよね」


竣佑はそう言うと、車内に再びの沈黙が広がった。

真梛斗の自宅がある天城のマンションに到着すると、
すでに見慣れた二人がエントランスで待っていた。

< 38 / 115 >

この作品をシェア

pagetop