極秘新婚~独占欲強めの御曹司と突然夫婦になりました~

「う、うう~!」

 負けず嫌いな私はやけくそになり、目を瞑って唇を突きだした。

 ただし、相手の唇に出はなく、頬に。

 一瞬の接触のあと、できるだけ背中をしならせる。

「い、今は、これが、精いっぱ~い」

 昔の怪盗アニメの主人公のようなセリフを漏らすと、裕ちゃんはふきだした。

 私のキスで、嬉しいのか? 羅良にキスされた気分になれたのかな?

「はは。仕方ないな、許してやるよ」

 大きな手が頭をなでる。

 体勢を整えられたと思うと、裕ちゃんの手はすっと私から離れていった。

「行ってくる」

 歯を見せて笑った裕ちゃんがドアの向こうに消えていく。

 私はそれを、ぼんやり見送った。

 毎日この調子じゃ心臓がもたない。いったいいつ、元の生活に戻れるのか……。

 はあああと深く息を吐き、玄関に座り込んだ。

 心臓が平常運転に戻るまで、ゆうに三十分はかかった。


< 40 / 210 >

この作品をシェア

pagetop