【シナリオ】溺愛社長の2度目の恋
第4話 これってファーストキス!?
○天倉家(朝)

   携帯に出ている夏音。
   電話の相手は夏音の父親。

夏音父『そんなの、認めないからなー!!!!!』

   あまりの父の大声に、夏音が電話を耳から離す。

夏音「お父さん、あのね……あっ」
天倉「お電話代わりました、天倉です」

   夏音がなにか言うよりも早く、天倉が電話を奪う。

天倉「この度は誠に申し訳ございませんでした。……はい、大丈夫です」

   不安そうに夏音は天倉を見つめている。

天倉「……はい、はい、誠心誠意、夏音さんを愛しております」
   天倉の言葉に夏音が驚いた顔をする。

天倉「……後日、改めてお伺いしようかと。……はい、では後日」
   天倉が夏音に携帯を返す。

夏音「父はなんと?」
天倉「とにかく一度、会いたいだって。ご両親に結婚のこと、言ってなかったのかい?」
夏音「なんとなく……」

   と、口を濁す。

夏音「でもなんで父は結婚のこと、知ってたんでしょう?」
天倉「ああ、これだよ」

   渡された新聞の片隅に、【四菱地所御曹司、天倉有史氏、一般女性と結婚】という記事とともに相手の名前に夏音の名前が載っている。

夏音「え、新聞記事になるようなことなんですか!?」
天倉「僕から連絡したからね。こうでもしとかないと周知されないだろ?」
夏音「……」

   不審顔で夏音が天倉の顔を見る。

天倉「さ、そろそろ出ないと遅刻するからね」

   誤魔化すように天倉が立ち上がる。

夏音「あ、待ってください!」

   夏音、玄関へ向かう天倉を慌てて追う。


○SEオフィス(朝)

   ひとりずつパーティションで区切られたオフィスの一角。
   少し開けた場所で十人ほどの前に立つ天倉と夏音。

天倉「本日からデザイナーとして働いてもらう、古海さん」
夏音「よろしくお願いします」

   夏音、あたまを下げる。

天倉「知ってる人はもう新聞で知っていると思うけど。僕は古海……夏音とつい先日、結婚しました」
社員一同「ええーっ!?」

   専務の末石(すえいし)(40)、はーっと大きなため息をついてあたまを抱える。

末石「どおりで、採用の件は全部自分に任せておけとか言ってたのか……」
天倉「僕の妻だからといって特別扱いは必要ない。じゃあ、仕事開始!」

   パンパンと天倉が手を打ち、社員たちは自分の席へと散っていく。

天倉「夏音、ちょっと」
夏音「はい」

   夏音、末石と共に天倉に社長室へ連れていかれる。
   夏音が勧められて座ったソファーの向かいに、天倉と末石が並んで座る。

天倉「紹介するね、僕の友人で専務の、末石」
末石「初めまして……」

   と、大きなため息。

天倉「なんだかタイミングが悪くて、面接のときも夏音が訪ねてきたときも末石いなくてさ。これが初めましてだよね?」
夏音「はい。こちらこそ、初めまして、よろしくお願いします」
末石「はぁーっ」
夏音M「さっきから末石専務はため息をついてばかりだけど……。私の採用に反対だったのかな。それとも、結婚の方? なら、わかる」
末石「なあ、有史。俺は採用の話は聞いたけど、結婚の話は聞いてないんだがな……」
天倉「うん、さっき初めて言った」
末石「だーかーらー」

   末石の口端がぴくぴくと引き攣る。

天倉「ほら、最近、実家から結婚の話がうるさいだろ? だから偽装結婚」
末石「はぁーっ。それで、古海はいいのか」
夏音「はい。いいもなにも、もう籍を入れてしまいましたし……」
末石「はぁっ!?」

   末石、天倉の胸ぐらを掴む。

末石「もう深里(みさと)のことはいいのかよっ!?」
天倉「……そもそも、早く深里を忘れろって言っているのは末石だろ」
末石「それは……そうだが……」

   と、天倉から手を離して項垂れる。

天倉「これは、深里のための結婚でもあるんだ。それに夏音は納得してくれたし」
末石「……わかった。俺は約束があるからもう行く」
天倉「悪いな、驚かせて」
末石「……いや、いい」

   俯いたまま末石、部屋を出ていく。

夏音「あのー、……末石専務、よかったんですか」
天倉「ああ、亡くなった妻の深里は、末石の妹でさ。だから偽装とはいえ僕の再婚に複雑なんだろう」
夏音「そうなんですね」

   と、末石が出ていったドアの先をちらり。

天倉「それより、これからの仕事の話をしよう。うちは少数精鋭だからね。忙しいよ」
夏音「はい」

   と、仕事の話をはじめた天倉に気を引き締める。


○天倉家リビングダイニング(夜)

   エプロン姿で料理をしている天倉を尻目に、夏音はリビングのテーブルでパソコンを広げ仕事をしている。

天倉「夏音ー、できたからお皿並べてー」
夏音「はーい」

   夏音、パソコンを閉じ、キッチンへ向かう。

夏音「今日も美味しそうですね」
天倉「そうかい?」

   と、出された皿にクリームパスタをよそう。
   皿は二人分だが別に、小さなトレイに小皿が料理の数だけのっている。

夏音M「天倉社長との生活はようやく、一週間が過ぎた」

   ダイニングテーブルの上に料理が並んでいく。今日のメニューはほうれん草とツナのクリームパスタ、ミネストローネ、焼きブロッコリー。

天倉「先、食べてていいから」

   天倉、少量取り分けた料理をのせたトレイを持って、部屋を出ていく。

夏音「今日も奥さんのところか……。くーっ、純愛、萌え!」
   と、手足をバタバタさせる。
夏音M「天倉社長は毎日、食事を亡き奥さんの部屋へお供えに行く。亡くなって8年たってもまだ、そんなことをしているなんて、純愛は尊い」

   少しして天倉、戻ってくる。

天倉「もしかして待っていてくれたのかい?」
夏音「え、ええ。まあ……」
夏音M「だって、社長の純愛に想いをはせるだけで時間がたっちゃうし」
天倉「ありがとう。じゃあ、いただきます」
夏音「いただきます」

   ふたり、食事をはじめる。

天倉「明日の休み、夏音のお父さんの都合がつけば、ご挨拶に行こうと思うんだけどどうだろう?」
夏音「あー、……そうですね」
夏音N「父はあれから恐ろしいほどの沈黙を保っているが……やはり、このままではいかないか」
夏音「連絡してみます」
天倉「うん」

   食事が終わり、天倉が片付けをしている間に夏音が父親へ電話をかけている。

夏音「あ、お父さん?」
夏音父『なんだ?』

   と、不機嫌な声。

夏音「明日、天倉しゃ……天倉さんと一緒に、そっちにいこうと思うんだけど」

   片付けをしていた天倉、チラリと夏音を見る。

夏音父『勝手に来ればいいだろ』
夏音M「まだ怒ってるんだ。まあ、黙ってた私が悪いんだけど」
夏音「じゃあ、お昼過ぎに行くね」

   電話を切り、夏音がため息をつく。

天倉「お父さん、なんだって?」
夏音「勝手に来ればいいだろ、って」

   と、困ったように笑う。

天倉「明日、夏音に不利にならないようにちゃんと話をするから大丈夫」
夏音「よろしくお願いします」

   夏音、少しだけ安心したように笑う。

天倉「それでさ、明日のことなんだけど」

   天倉がじっと夏音を見つめ、夏音は緊張でごくりとつばを飲み込む。

天倉「天倉社長はもちろんダメだし、天倉さんもダメだよ。だってもう、夏音も天倉さんでしょ」
夏音「うっ」

   と、言葉を詰まらせる。

天倉「ちゃんと名前で呼んでくれるかな」
夏音「名前……」
夏音M「知ってる、けど呼ぶのはなんだか恥ずかしい……」
天倉「僕の名前、もしかして覚えてない? ……有史、だよ」
夏音「……!」

   耳元で天倉から囁かれ、夏音が一気に赤くなる。

天倉「どうしたの?」
夏音「な、なんでも」

   と言いながら、挙動不審な夏音。

天倉「じゃあ名前で呼んでくれるかい?」

   小さく深呼吸して気持ちを落ち着け、夏音が口を開く。

夏音「ゆ、有史、……さん」

   上目遣いで夏音が天倉を見上げる。

天倉「……可愛い」

   右手で口もとを隠し、天倉が目を逸らす。

天倉「こんなに可愛い子と僕が偽装結婚なんていいのかな……?」

   近付いてくる天倉の顔を夏音はじっと見つめている。
   夏音が目を閉じる間もなく、唇が重なる。

夏音M「これってファーストキス……!?」
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