優等生の恋愛事情
◇キミの膵臓をはめたい(?)
――1年前――

夏は苦手……。

周りの人たちが夏休みへの期待でワクワクしていても、私はいまいち乗っかれない。


もちろん、夏休みは嬉しい。
なんといっても学校がないもの。
それは嬉しい。本当に嬉しい。


でも、想像してしまうから。
夏休みが終わる頃の、
あのどんよりとした気持ちを……。


“刹那的”とか言うのかな? 
夏休みってひどく儚い。


当たり前だけど終わりがあるから。
始まる前から
終わりが来るってわかっているから。
だから手放しで喜べない。


自分でもすごくバカみたいって思う。
とりあえず素直に楽しめばいいのにって。
でも……怖いのだ。

ぬるくて居心地のいい世界に慣れすぎたら、
もう戻れない気がして。

鈍感力、平常心、スルー技術。

3つのスイッチを1度オフにしてしまったら最後、どうにもできなくなりそうで……。


「あーもう!男子って勝手すぎ!」


掃除の最中、同じ当番の丸川さんがヒステリックに文句を言う。

何かと理由をつけては男子が掃除をサボるのはお約束。そして、丸川さんが「きぃー!」となるのもまたお約束。


小学校のときは掃除の時間ってお昼にあった気がする。でも、中学に入ってからは当番制で終礼後にやるようになった。


理科室はうちのクラスの分担なのだけど、ここは先生の目が届きにくいのもあっていつもこんな調子だった。


「ねえ!溝口さんも黙っていないでちゃんと言ってよ!もう!」


(だって、どうせ言っても聞かないし)


私が苦笑いして曖昧に返すと、丸川さんは「いつも私ばっかり!」とさらにイライラを募らせた。
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