哀夢
壊れた心
 かず君とはメールのやり取りを数回、電話は頻繁に何度もしていた。その度に
「愁ちゃんは悪くないよ。ひどいことをされているね。」
と、優しい言葉をかけてくれていた。 

 そんな毎日が続いたある日、かず君は突然こう切り出した。
「愁ちゃんはラブホの中興味ない?」
「うーん…どんなところか気にはなるけど…」
「オレも行ったこと無くてさ、よかったら今度行ってみない?オレ金出すし…。」

 不安はあった。でも、かず君に会ってみたいと思い、OKした。中を見るだけ、見て、会って、話をするだけ…。

 かず君に会う日、ドキドキしながら待っていると、さわやか系の男の人が
「愁ちゃん?」
と、声をかけてきた。がっしりした体型、少しあどけなさの残る笑顔。初めて接する大人の男の人に、わたしの緊張は右肩上がりだった。

「行こうか。」
慣れた様子で半歩先を歩いていく…本当について行っていいのか…でも、今は彼を信じるしかない!わたしは意を決して、ラブホ街に踏み込んだ。

 ラブホに入ると、ベッドが真ん中にあり、端にはソファと小さなテーブルがあった。薄暗い部屋。わたしは緊張からトイレに駆け込んだ。…心臓が飛び出しそうなくらいバクバクいってるのがわかる。落ち着け、大丈夫…大きな深呼吸を1つして、トイレを出た。

 かず君はベッドの端に腰掛け、
「愁ちゃん、おいで。」
と声をかけた。

 わたしがそばに行くか行かないかのところで、手を掴まれ、押し倒された。

「初めて?その気で来たんだろ?」
 これまでの顔とは違う、男の顔をして、かず君は言った。
 わたしは、渾身の力で抵抗する。…が、勝てない。

 あっという間に下着をはぎ取ると、自分のモノを強引にねじ込む。これまでにない激痛で、わたしは絶叫して逃げ回った。なかなかじっとしていないわたしに苛立った彼は、痛烈な一言を放つ。
「その気で来たんだろーが!今更かわいこぶってんじゃねーよ!じっとしてろ!すぐ終わるから!」

 わたしの中で何かが壊れた音がした。わたしは彼を受け入れた。痛くて涙が出た。

 家に帰り、PHSをいじる……と、履歴が削除されていた。
…電話帳からもかず君の番号だけがない!

   ………やられた………

 軽い落胆と、嫌悪感。
 そうだよね。わたしなんかを本気で相手にするわけないよね。クソ野郎!ふざけんな!最低なヤツだ!でも、わたしの唯一の心の支えだった。

 わたしはふと思い出す。そういえば……机の山の中を乱雑に漁る。たしかこの辺に………あった!
 そこにはかず君の番号が書いた紙。

 でも、今更どうする?……遊びだったか聞いたところで、
答えはわかってる。そもそも電話に出るはずがない。

 それでも、怒りの収まらないわたしは、思ったことをメールで連打した。
(かず君、愁です。番号消したでしょ!)
(本当に信じてたのに…最低!)
(なんか返したら?)

………送ること数十件………

疲れたわたしは最後にこう送った。
(ごめんね。…好きだったよ。ありがとう。バイバイ。)

どうしようもない怒りと悲しみ。憧れていた恋人、ファーストキス……それはわたしの夢と消えた。

 残ったのは汚れた身体。
 不思議と嫌じゃなかった。
 こんなわたしでも、使えるものが残ってるじゃない。

 自分の居場所が無いなら作ればいい。わたしにはまだ身体(いれもの)がある!
 
 その日から、わたしは変わった。テレクラ(今で言う出会い系サイトかな?)に電話をかけて、20代の男の人と話しては会ってホテルに行った。学校は春休み中、高1では引く人もいたので、はじめは18と嘘をついた。

 次は少し変な性癖のある男だった。たしか24だったと思う。単車にニケツしてラブホへ直行だった。ラブホの駐車場で、どうでもいい男とファーストキスをした。その人は、恥ずかしさから声を出せないわたしに、
「お兄ちゃんって呼んで」
と囁いてきた。
「…お…兄…ちゃ…ん……」
私は、何かで見た台詞のように、途切れ途切れに呼んであげた。その人とは2回会っただけで終わった。

 わたしはSEXの気持ち良さがわからなかった。どちらかというと、そばにいてもらう代償行為だった。

 高校に入ると、いっそう激しくなった。入学して数日で、グループを1つ作り上げ、気に入らない授業はサボってテレクラで男をつかまえる。
 だんだんと、家に帰らない日が増えて行く。夜にテレクラに電話をして、車で近くまで来てもらうことも増えた。

 家にも学校にも居場所が無いことを話すと、体の関係なく、膝枕をして一晩寝かせてくれる人もいた。ガキ連れで来て、ヤッている間は子供を車外で遊ばせるようなクソもいた。

 一度目の休日にグループでテーマパークに行った。これが、高校生活最初で最後の思い出。この間だけは、普通の高校生だったと思う。
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