山の中のキャンプ場に到着したときには、日菜子の兄・剛毅はすでに到着していてスタッフと準備をしていた。

「遅くなってごめんなさい」

 日菜子が声をかけると顔見知りのスタッフが「おお、日菜子ちゃん!」と笑顔で迎えてくれた。

 兄の視線は日菜子ではなく、すぐ後ろにいた拓海に向けられた。

「お兄ちゃん、こちらが……」

 日菜子が拓海を紹介しようとしたら、彼にそれを止められた。

「先日は突然お電話で失礼しました。改めまして……日菜子さんとお付き合いさせていただいてます、南沢拓海です。今日は存分にこき使ってください」

 勢いよく頭を下げた拓海に驚いた。

「こちらこそ、わざわざこんなところまですまないな。よろしく頼みます」

 剛毅もにこやかな笑顔を浮かべている。

 これまで兄は過去に日菜子がつらい思いをしたことを知っているので、妹の男性関係にはすごく敏感だった。少しでも傷つきそうなことでもあろうならば、先陣きって相手につめよることもしたであろう。


 幸い日菜子にそういった話がなかったおかげで、被害者は今の所おらず、しかしたら拓海が第一号になるのではと密かに日菜子は懸念していたのだ。

 けれどそれは杞憂に終わった。拓海が剛毅に事前に連絡を入れて話をしてくれたおかげだろう。

 兄がスタッフに呼ばれてその場を離れた隙に、日菜子は拓海に尋ねる。

「いったい、いつの間に電話なんてしたの?」

「日菜子はきっとすぐにお兄さんに連絡を入れるだろうから、話を決めた翌日の午後にネットで調べて電話をかけたんだ」

 根回しの良さに驚いたが、そのおかげで兄と恋人の関係が険悪なものにならなくて済んだのだ。拓海の気配りに感謝しなくてはいけない。