「おしゃべりとは余裕だな」

 なんだか不機嫌そうだ。いつも飄飄と仕事をこなしているイメージなので、珍しい。何か嫌なことがあったのだろうか。

「そんな、暇そうなお前に、追加でコレも頼む」

 修正指示と資料の整理をまとめて頼まれた。

「あの、知っていると思うけど全然暇じゃな――」

「松風ってば、ああいう男がタイプなの?」

「ああいうって……別にタイプとかじゃないけど」

 さっきまで話をしていた西野のことを言っているのだ。正直な気持ちを口にする。

「まあ、タイプだろうが関係ないけどな。今のお前は俺のなんだから」

(なんて言いかた! 誤解されちゃうじゃないの)

 その証拠にとなりの席で作業している花にも聞こえたようで、意味ありげにチラッとこちらを見ている。

 しかしいちいちつっかかっていては、相手の思うツボだ。拓海は日菜子をからかって遊んでいるだけなのだから。

 それに仕事の遅れが出れば現場にも迷惑がかかってしまう。

「わかりました。脇坂さんってすごいんですね。この仕事の量をこなすなんて」

 日菜子の代わりに二課を担当することになった脇坂だが、彼女がひとりでこの仕事をこなしていたのだ。色々と意地悪なことを言われたり、仕事を押しつけられたこともあったけれど、この量の仕事をこなしていたのならば、事務仕事や掃除に手が回らないのもしかたがなったのかもしれない。

「いや、脇坂さんはこんなに仕事できないから。お前の半分くらいしか頼んでない」

「えぇー!」

 あっけらかんと言ってのけた拓海の言葉に、思わず大きな声をあげた。周りの視線がつきささり途端に頬が赤くなる。

「そんなに驚くことか? お前だから頼んでるんだ」

 その言葉に胸の奥がくすぐったくなった。頑張っていることをこんなふう評価してくれるのはうれしい。

 思わず頬を緩ませた。

「南沢くん、ちょっといいかな?」

 噂をすればなんとやら……で、脇坂が現れた。

 日菜子はやっと拓海から解放されると思い、ほっとして仕事を再開させた。