「迷惑だったらはっきり言ってほしい。俺も強引には誘わな――」

「迷惑なんかじゃない……から。わたし……」

 勇気が出せずに言葉に詰まる。

(だめ。せっかく謝罪を受け入れてくれたんだから、ちゃんと気持ちを伝えなくちゃ)

「わたし、南沢くんがまた誘ってくれてうれしかった。それに斎藤さんに怪我の手当するように伝えてくれたことも、うれしかった」

 早口になってしまったのは、一度でも止まってしまうと言えなくなってしまいそうだったからだ。

 緊張と興奮でドキドキと心臓の音がうるさい。けれど日菜子の心の中に後悔はなかった。

「そっか。わかった」

 それまでどこか硬かった拓海の表情がやわらかくなる。

「許してくれるの?」

「ああ。だから寿司な!」

 拓海が人差し指を差し出して、日菜子の鼻の頭をツンとつついた。

「じゃあ、俺行くわ。遅れるとまずいし」

「そうだね、呼び止めてごめん」

 歩き出した拓海の姿を見送っていると、彼はすぐに日菜子を振り向いた。

「そうだ。手当ちゃんとしておけよ。痕が残るといけないからな」

「うん。ありがとう」

 日菜子が素直に返事をすると、拓海は速度を早めて歩き出した。その姿を見て勇気出してここまで追いかけてきてよかったと思う。

 今まで自分の殻に閉じこもっていた。それではいけないという思いよりも傷つきたくないという思いが、常に胸の中にあった。

 けれど拓海に自分の気持ちをきちんと伝えることができたことで、一歩前に進めたような気がする。

 そしてそんな自分が好きだと実感する。

 ふと腕時計を見て驚いた。始業時間まで後五分。日菜子は急いで走ってきた道をまた全速力で戻ることになった。

 そのころには胸の痛みも手の火傷の痛みも、気にならなくなっていた。