第三章 わたしに恋が落ちてきた

「斎藤さん。これもしよかったら食べてもらえる?」

 金曜の昼休み、日菜子は食事を終えて戻ってきた花を捕まえて、ラッピングされた小さな箱を手渡した。

「わ~なんですか。これ」

「うちの近くにあるケーキ屋さんのクッキーなんだけど、とってもおいしいの。よかったらどうかな……と思って。あの、手当をしていただいたお礼です」

 日菜子はデスクの上に小箱を置いた。

「え? でも手当っていっていも、お薬を塗っただけですよ」

「それでもあの……うれしかったから」

 普段人とあまり関わりをもたないようにしている日菜子にとっては、こういうことも慣れていない。

 けれど今回はどうしても花に感謝の気持ちを伝えたかったのだ。

 火傷は幸い大したことなく、花がすぐに手当をしてくれたことによって週末にはほとんど痕もわからなくなっていた。

「松風さん!」

「は、はい!」
 いきなり花に結構大きな声で名前を呼ばれて、日菜子も思わず元気よく返事をしてしまう。

「すごくうれしいです! ありがとうございます」

「いえ、あの……お礼を言うのはわたしのほうで――」

「でも、それでもうれしいです。なんだかやっと仲良くしてくれるようになって」

「え?」

 意外な答えに、日菜子は花の顔を見た。

「松風さん、いつも丁寧で優しいんですけど、どこか壁があったじゃないですか。だから、今ちょっとわたし感動しています」

 まさか花がそんなことを思っているとは、日菜子は気がついていなかった。

「そんなつもりじゃ、なかったんだけど。わたしのほうが先輩なのに面倒ばかりかけてごめんね」

 脇坂から理不尽な扱いを受けそうになったときも、後輩ながら花はかばおうとしてくれた。

全員参加の飲み会のときも、気がつけば隣にいてくれてあれこれと世話をやいてくれた。