エリート俺様同期の甘すぎる暴き方~オレ、欲しいものは絶対手に入れる主義だから~

 週半ばの水曜日。仕事を早く終えた日菜子は喫茶わかばで夕食を取っていた。わかばの忙しい時間帯はモーニングからランチにかけて。それ以降は比較的客の入りは落ち着いていて、美穂がひとりで切り盛りしていることも多い。

 ときおりカウンターに座る日菜子と雑談をしながら、仕事をこなしていく。多少からかいながらも、日菜子の幸せそうな顔に美穂も頬を緩ませた。

「じゃあ、明後日の誕生日は一緒に過ごすんだよね?」

 その質問に日菜子は顔を曇らせた。

「んー、実はまだ誕生日のこと言えてないの」

 食後に淹れてくれたカフェラテに息を吹きかけ冷ましながら日菜子が答えると、ガシャンと派手な音が聞こえた。

「ど、どうしてよ!?」

 目を剥いて大きな声を出した美穂に、日菜子はあわてて「シー」と人差し指を唇に当てて静かにするように言った。

 美穂も我に返り、奥のソファ席に座っている客に軽く頭を下げた。

 それから冷静に日菜子にといつめる。

「ちょっと、いったいどういうことよ。せっかくの誕生日なのに言わないつもりなの? バレンタイン・クリスマス・誕生日と言えば恋人達の三大イベントじゃないのっ!」

 たしかに美穂の言う通りだ。けれど今回ばかりは少しタイミングが悪い。

「つき合いはじめたばっかりなのに『誕生日なの!』なんて言うと、催促してるみたいで嫌なの」

 ここのところ大きな案件が続いている。大変そうだが仕事自体を楽しんでいる拓海は次々に精力的に仕事をこなし、周りからの大きすぎる期待にもさらりと答えている。

 けれどそんな生活の中で十分な休息をとれていないのも事実だ。帰宅したとのメッセージが深夜ということもよくある。

 そんな忙しい彼を煩わせたくないというのが本当の気持ちなのだ。

「別にそのくらいいいじゃない。つき合ってるんだから」

 グラスを拭く美穂は、あきれ顔だ。

「そう言えればよかったんだけど」

 苦笑いの日菜子に、美穂はもうそれ以上はなにもいわなかった。

「じゃあ、わたしがお祝いしてあげるわよ。週末にひとりの誕生日なんてつまらないでしょう?」

「本当に!? ありがとう」

 日菜子は美穂の提案に一も二もなく飛びついた。強がっていたもののやっぱり週末、しかも誕生日の夜にひとりで過ごすのはやっぱり寂しい。

 拓海は金曜の夜遅くまで商談の予定。その後は泊りで土曜日に帰ってくる予定になっていたはずだ。

(会いたいけれど、我慢、我慢)

 一週間の出張できっとクタクタに疲れているに違いない。週末はきっとゆっくり過ごすのだろう。月曜日には会社で会えるのだから、それまでの辛抱だと、日菜子は自分に言い聞かせた。


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