イケメン不良くんは、お嬢様を溺愛中。

新鮮な休日


昨日の事件の影響で、学園は休校になった。

屋敷にいてもつまらないからと、私は乗り気じゃない剣ちゃんをなんとか説得して……。

ついに、剣ちゃんの通っていた“不良校”にやってきていた。

見上げた学校の外壁には、カラースプレーで【喧嘩上等!】【天下統一!】と書かれている。

おお……。
変わった芸術作品だなあ。

私はうずうずしながら、剣ちゃんの腕を引っ張る。


「ねぇねぇ剣ちゃん、このアート斬新だね!」

「は? アート?」


剣ちゃんは得体の知れないものを見た、みたいな顔をした。


「カラフルなペンキで、四字熟語を書き殴るなんて、普通じゃない! まさに天才の発想、ピカソ並みの才能を感じるよ!」

「お前のセンス、どうなってんだよ! それはただの落書きだ」


驚愕の表情を浮かべる剣ちゃんと一緒に校内に入る。

剣ちゃんは中を案内してくれているのだけれど、さっきから人っ子ひとりすれ違わない。


「あれ、今日って平日だよね?」


そう尋ねると、少し前を歩いていた剣ちゃんが振り返る。


「あ? そうだけど」

「そうだよね……。でもなんか、静かじゃない?」

「あー……まともに授業受けてるやつ、いねぇからな」

「え? 全校生徒が校外学習に行ってる……みたいな?」

「それはずいぶん大掛かりな校外学習だな」


んなわけねぇだろ、と言いたげな顔で、剣ちゃんはどんどん進んでいく。

すると、職員室に続く廊下に椅子の山が積み重ねられているのを発見した。


「わあ、すごい。あのオブジェ、誰の作品かな?」

「……あれはオブジェじゃねぇ。教師が入って来れねぇように、誰かが道をふさいだんだろ」


もはや宇宙人を目の当たりにしたような目で、剣ちゃんは私に説明してくれる。

私は見るものすべてが新鮮で、わくわくして……。


「剣ちゃん、モーツァルトの目に画鋲が刺さってる!」

「小学生みてぇなイタズラだな」

気づけば私は、剣ちゃんを質問攻めにしていた。

「あ、部活の勧誘のポスターがある!」


私は廊下の掲示板に駆け寄る。

黎明学園にも部活はあるけど、バイオリンやピアノ、書道やフェンシングといった品や教養を重視したものばかり。

でも、剣ちゃんの通っていた学校は違うみたい。


「えっと、【肉体強化部】に【サバイバル部】……? これって、なんの部活?」

「ろくなもんじゃねえから、お前は知らんでいい」

「えー、でも気になるなぁ」

「ざっくりまとめると、ケンカが強くなる部活だ。ほら、あんまりはしゃいでんなよ。行くぞ」


剣ちゃんは困ったように笑うと、私の手を引く。

最後に向かった先は体育館だった。

体育館に近づくにつれて、ボールが床をバウンドする音と笑い声が聞こえてくる。


「俺のダチだ。たいてい、ここでサボってんだよ」

「剣ちゃんのお友だち!? わぁっ、会えるの楽しみだなぁ」


わくわくしながら体育館に顔を出すと、剣ちゃんの友だちがバスケをしていた。


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