人生の続きを聖女として始めます
エルナダ暦 1020年 マデリン・ソーントン子爵令嬢
ーーー麗しきエルナダは、獅子王が支配する悠久の国。それは神の作りし美しい大地。

かの地に、災いが降り注ぎし時、漆黒の聖女が降臨し全ての暗雲を祓うであろう。
王が聖女を敬い愛し、その心を満した時、それがエルナダの恒久平和の始まりである。

ーーーー予言者ラシャーク


*******


エルナダ王国。
この王国は、長い歴史と広い国土、更に財力を兼ね備え、他の国々を圧倒する武力を持つ大国である。
代々この国の王は「獅子王」と言う名で呼ばれ、金色の瞳を持つというのが特徴だ。
美しく聡明な王は、首都でも大人気で貴族の娘達が自分を売り込むために足の引っ張りあいをしている……という噂をよく耳にした。

でも、辺境の領地に引きこもるように住んでいるソーントン子爵家には、あまり関係のないことだった。
私、マデリン・ソーントンが暮らすこの領地は、はっきり言ってど田舎である。
葡萄園と小麦畑と、あとは政治犯収容所、監獄「ラ・ロイエ」があるくらいだ。
ラ・ロイエは、他国に情報を横流ししたり、横領したり、国家を転覆させようと暗躍した者達を収容するための施設だけれど、実はそれとは別の用途もあった。
わけありの貴人を隔離、または、庇護するという部屋があったのだ。
それは、監獄塔の最上階にあり、特別室と言われている。
ソーントン子爵家は、このラ・ロイエの管理と、特別室の貴人の世話を任されていた。

私の仕事は、囚人の配膳を領地の婦人会と一緒にすることだった。
政治犯といっても、もとは身分の高い貴族の方々。
彼らは毎日本を読んだり、隣の牢獄の人とチェスをしたり……案外のんびりとした生活を送っている。
それも、ソーントン子爵が締め付けを嫌い、普段通りの生活が送れるようにと手配した結果であった。
そんな子爵の配慮によって、彼らは心穏やかにここで生活をしている。
< 1 / 238 >

この作品をシェア

pagetop