バッドジンクス×シュガーラバー
9:バッドジンクス×シュガーラバー
そうして、約1ヶ月が過ぎた。



「それじゃあ、午後からの役員プレゼンに向けてゲン担ぎということで! カンパ──」

「いや牧野くん、このタイミングの乾杯はどうなの? しかもお冷だし」



右手に持ったお冷のグラスを高々と掲げようとしていた牧野さんへ、すかさずえみりさんがツッコミを入れた。

彼女は多少ショックを受けた顔をする牧野さんをスルーし「さ、憂依ちゃん。冷めないうちに食べましょ」と私に声をかけて、割り箸を手に取る。

並んで座るそんなふたりの向かい側にいる私も、苦笑しつつ箸を割った。

ランチタイム。私は牧野さんとえみりさんとの3人で、会社にほど近い場所にある定食屋へとやって来ている。

ただ食事をしに来たわけではなく、今日ここへ来たのには理由があった。

それは、今日の午後──いよいよ、新商品開発の最終関門ともいえる役員プレゼンを控え「ゲン担ぎにカツを食べよう!」と、先輩ふたりが誘ってくれたためだ。

ちなみに注文したものは、牧野さんはカツ丼、えみりさんはヒレカツ定食、私はロースカツ定食。

こんがりキツネ色に揚がったカツにソースをかけてかぶりつくと、サクッといい音とともに中から肉汁があふれ、口いっぱい幸せが広がった。
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