バッドジンクス×シュガーラバー
「──これで、」



軽く触れ合わせただけの、たった3秒足らずで終了した短いキス。

ああ、男の人の唇って意外と柔らかいんだなあなんて、この瞬間の私はそんな呑気なことを考えられない。

顔を離した久浦部長が吐息混じりにつぶやくのを、呆気に取られながら聞いていた。



「明日俺がどうなるか、楽しみだな」



言いながらメガネを戻されて。クリアになった視界の中心、私の前には意地悪そうに笑う久浦部長がいる。

絶句する今の私の顔は、果たして赤いのかそれとも真っ青になっているのか──確認しようもないまま、久浦部長はあっさり私の横をすり抜け、ミーティングルームを出て行ってしまう。

な……っなに、今の……??!!

肩から滑り落ちたバッグが、音をたてて床にぶつかった。

カクンと足の力が抜け、思わずその場に座り込む。

なんで? どうして久浦部長は、私にキスなんてしたの?!

脳内はクエスチョンマークだらけ。自分の口もとを両手で覆いながら、それ以上動くことができない。

よくわからないまま奪われたファーストキスの感触は、私に混乱だけを残して、綿菓子のように溶けて消えてしまった。
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