僕に言葉を、君には歌を
今にも雨が降りだしそうな空。

いつもより早く目が覚めてしまった。
今日は家にこもると決めていたから、買いためていたパンを食べながらテレビをつける。

「今日、お前も来るだろ?」

そう聞く友人の言葉に、見えないのにかぶりを振った。

「行かないよ」

行けないよ、とは言わない。

「なんでだよ」

「いや、なんとなく」

理由を詮索されたくなくて、僕は曖昧に笑って「じゃ」と言って一方的に電話を切った。


僕にとって彼女は特別な存在なのは間違いない。
でも、それは恋ではない何か。

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「歌、うまいんだね」

その声に振り返ると、驚いたように笑う顔が見えた。
それが、彼女だった。

「いつから聴いてた?」

誰もいない教室のベランダなんて誰も来ないと思っていたから、全力で歌っていた。
気恥ずかしくて、少し声が小さくなる。

彼女はクラスメイトだけど、ほとんど話したことがなかった。

「えっと、三分前くらい?部活終わって荷物取りに来たら、歌が聴こえてきて」

ほら、と彼女は自分のカバンを高々と見せつけてきた。
別に疑ってないのにと思い、つい笑ってしまう。

「それにしても、歌うまいね。聴き惚れちゃった」

「まぁ、一応、合唱部だから。でも、もっと上手い人なんて、ごまんと、いるよ」

惚れちゃった、の響きがあまりにも無邪気で恥ずかしくてまた少しぶっきらぼうにつぶやいた。

「そう?うーん、合唱詳しくないからなぁ」

僕の返しに、彼女は悩んだように空を見上げた。
僕はそんな彼女の顔を見つめていたから、その時、どんな色の空をしていたのか知らない。

「あっ。でも、これだけは分かるよ」

そう言って、彼女は僕に視線を戻した。


「君の歌は、みんなを惹き付ける」


この言葉が、ずっと僕の胸に焼きついて離れない。
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