悔しいけど好き

ちょっと小話~美玖の取り越し苦労~


あの日の事を思い出す……



「お前のせいじゃない、気にするな」

凪ちゃんが袴田専務に襲われ、今後の事を話すため凪ちゃんの家へ行った夜。
神城くんと話をし、眠ってる凪ちゃんの様子をそっと伺って胸が傷む。
帰りの車の中で思わずため息をつくと正木さんの手が私の手を包んだ。

「でも、私が凪ちゃんを一人にしなければ…」

「美玖、自分を追い詰めるな。腹の子に障るぞ」

「うん…」

正木部長と婚約中の私はつい先日、妊娠していることがわかった。
それで、来年の3月には会社を退社して専業主婦になることに決めたばかり。

結婚を知っているのは私達以外では凪ちゃんだけ。
でも妊娠のことはまだ黙っていた。
発覚したのが2周目とほんとに初期で安定したら話そうと思っていた。
他の皆は私と正木部長が付き合っているのさえ知らない。

会社では人気の正木部長と噂になるのは綺麗な女性ばかりで、私なんて見向きもされないと思っていたら、まさかの正木部長からの告白で付き合うようになって早5年。
付き合う時皆にはあまり話したくないと言うと、「俺は気にしないけど美玖がそうしたいのなら黙っておく」とそれから会社ではいつも通り接していた。
5年経った今でも私と正木部長は釣り合わないのか一緒にいても誰も気付かれなかった。

気付かれたい訳じゃないけど少しの可能性も無いと皆が思っていると思うとちょっと落ち込む。
そんなことがあって正木さんが凪ちゃんに話したと聞いたときどう思ってるだろうとちょっと怖かった。

それが、凪ちゃんがおめでとうと言ってくれて、お似合いです!素敵!と満面の笑みで言ってくれて、心から言ってくれてるとわかってほんとはどうしていいかわからないくらい驚きと嬉しさで舞い上がってた。
だからいつの間にか自分でも思ってもみない言葉が出て来て凪ちゃんを励ましていた。

赤ちゃんが出来たことも言ったらきっと自分のことのように喜んでくれただろうって思うと今辛い目にあっている凪ちゃんには言えないなとやはりため息が出てしまう。

「神城だけじゃ頼りないから、美玖が羽柴を支えてやってくれ」

「はい」

正木さんに言われた通り、凪ちゃんを同じ女性として支えてあげたいって思う。
私に出来る事なら何でもするし、仕事のフォローだっていくらでもする。
凪ちゃんを一人にさせてはいけないと守りたい気持ちでいっぱいだった。
辛い時は頼って欲しい。
可愛い後輩の凪ちゃんが元気になることを心から祈り車から見える景色を見つめていた。

< 298 / 325 >

この作品をシェア

pagetop