エピソード2

「ああ、本当に良かったわ。セオドール様がお元気で。ね、ウォル」

夜、皇太子夫婦の寝室。

満面の笑みを浮かべたフィラーナは、ソファに並んで座るウォルフレッドの手を思わず握った。目の前のテーブルには、読み終えたばかりのセオドールの手紙が置かれている。

皇族の身分を離れて宮廷を去ったセオドールから、初めて届いた手紙。尊敬する絵師の弟子として、ようやく環境にも慣れ、元気にやっている、という旨が綴られていた。

ウォルフレッドは、「そうだな」と口元を綻ばせながら、空いている方の手で、フィラーナの蜂蜜色の髪を優しく撫でる。

人前ではウォルフレッドを『殿下』と呼び、敬語で話すフィラーナだが、ふたりきりの時の態度や口調は以前と同じだ。この時自分たちは皇族ではなく、どこにでもいる普通の夫婦であることを実感し、ウォルフレッドは嬉しさを隠せない。

「しばらくしてセオドールが完全に落ち着いたら、会いに行くか?」

「ええ、もちろん」

フィラーナはにっこり微笑んだが、その表情に少しだけ陰りが見えた。

セオドールの話題で思い出すのは、大切な親友のこと。

ルイーズからは、まだ何の連絡も無い。

怪我から回復したフィラーナは、すぐさま自ら筆を取り、ルイーズに自分が無事であると、手紙を書いた。なかなか返事が来ないので再び書こうかとも思ったが、もしかしたらルイーズは自分のことなど一刻も早く忘れたいのかもしれない。迷惑に思っているかもしれない。

そもそも、返事が来ることを期待してはいけないのだ。大切なのは、今のルイーズの心を乱してはいけないということ。

そう決意し、以降フィラーナは手紙を書くことを自粛している。