愛され秘書の結婚事情

4.


 一流レストランの料理は、七緒の期待以上の味だった。

 前菜の一皿目から彼女は、目にも楽しい盛り付けに小さな歓声を上げ、その複雑で洗練された味に舌鼓を打った。

「……佐々田さんは、島根県の出身だったね」

「はい。島根県の松江市です」

「宍道湖で有名だよね。出雲大社があるのは出雲市だっけ」

「そうです。自然ばかりの田舎ですが、良い所ですよ」

 故郷の景色を思い出し、七緒は一瞬だけ遠い目をした。

 すでに前菜は済み、二人の前には魚料理の皿が置かれていた。

 専用のナイフとフォークを使い、七緒は身の柔らかな鰆のポワレを一口食べた。

 とたんに口元を緩め、七緒は心底美味しそうな笑顔を見せた。
< 22 / 299 >

この作品をシェア

pagetop