探偵さんの、宝物
序章【ある調査にて】
 カフェの丸テーブルを挟んで見つめ合う僕らの会話は、普通のカップルとは少し違う。


「こういった複合型商業施設は出口が多いので、見逃さないようにしないと」
 僕は彼女に言いながら、視界の端では常に、違う席に座る一組の男女を捉えている。

「大丈夫です。マル被はCの出口に行きます」

 彼女は頷いた。瞳は自信に満ちている。
 『マル被』とは、被調査対象者を指す隠語だ。

「“夢”ですか」
「はい」

 対象者とその同行者が立ち上がり、会計を始める。

「そろそろ行こうか」
「うん」


 ここから僕らは敬語を取り名前で呼び合う。
 僕は会計したあと、彼女の手を取り歩き出す。

楓堂(ふうどう)さん、逆に目立つんじゃ……」

 冬が近づく季節柄、街にはカップルが溢れているので心配ない。
 調査のためという大義名分で手が繋げるのに、訴えなんて聞く気もない。

(すばる)って呼ぼうか」
「慣れません」
「慣れて下さい」
「楓堂さんも敬語になってますよ」
「ごめん、結月(ゆづき)

 顔を思いきり逸らした彼女を連れて尾行を続ける。
 彼女の夢の通り、対象者達はCの出口に向かうと思われた。
 僕らは先回りし、撮影に成功した。



 対象者達は、寄り添い微笑み合う。
 イルミネーションを見たあと、ホテル街に向かって行った。
 今夜も長丁場になりそうだ。
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