かりそめ婚ですが、一夜を共にしたら旦那様の愛妻欲が止まりません
マンションの部屋は元々広かったけど、長嶺さんのいない空間はさらに広く感じる。
部屋に差し込んだ優しい日差しだけが、今の私を抱きしめてくれた。

はぁ、こんな気持ちで結婚なんてできないよ……。

やっぱり私は長嶺さんと恭子さんの仲を引き裂くなんてできない。

私はバッグの中から婚姻届を取り出して目を落とした。“妻となる人”の欄には本来“佐伯恭子”と記入されているはずだった。抑えようとすればするほど長嶺さんへの想いが溢れてくる。

長嶺さん、好きです。私も、本当に愛してました……。

私は短く息を呑んで一気にそれを縦に引き裂いた。無心で何度も何度も気が済むまで破き続ける。次第に視界が滲んで瞬きすると、ゴミ箱の中には婚姻届の残骸が山をなしていた――。
< 179 / 220 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop