副社長に逢いに行くと出て行った須藤課長を、自分のデスクからぼんやり見送ったら、隣にいる猿渡さんが肩を叩いた。

「なぁなぁ、昨日はええ感じになったん?」

「普通に楽しかったですよ。友達と一緒に出かけたという感じです」

(友達とはキスしたりしないけどね――)

「友達~っ! その言葉、須藤課長に言わんでやって。きっとあとから泣き崩れると思うで」

「あはは……。わかりました」

 苦笑しながらやり過ごそうとした私の目に、猿渡さんのパソコンのモニターに映し出された文字が飛び込んできた。正直、リアクションに困ってしまう。

「ヒツジちゃんのエッチ。これはマル秘なんやで」

「あ、いえ、思わず見てしまうくらいに、タイトルがすごくて……」

 ピンクのハート型が点在した画面に、人妻美人巨乳団地妻不倫という文字が大きなフォントで打ち込まれているため、どうしても目についてしまった。

「離れている僕の席からでもそれが確認できるとか、どんだけ自分の性癖を教えたいんですか?」

 高藤さんの呆れた声に導かれるように、松本さんが傍にやって来た。

「う~わっ、えげつない……。クリックしたら、大音量で危ない動画が流れて、勝手にお金を巻き上げられるサイトみたいだな」

「そうなるか、確かめてみたらええやん」

 パソコンを操作しやすいように猿渡さんは椅子から腰をあげて、席を空けた。松本さんはその空いた椅子には座らずに、立った姿勢でマウスをクリックする。すると出てきたのは、複数のファイルだった。

『人妻』『美人』『巨乳』『団地妻』『不倫』という名前のついたファイルを目にしてしまい、会社でこんなのを見る暇があるのかと、猿渡さんを白い目で見た。しかも背後には須藤課長という、恐ろしい上司がいるというのに。

「須藤課長もたまに見ることあるで。よぉ見るのは不倫で、たまぁに団地妻」

「ヒツジがいる前で、そんなこと教えるなって。ん?」

 言いながら松本さんは『人妻』をクリックして、ファイルの中身を顔を寄せて確認したのだけれど。

「あーあ、男心をくすぐるファイルですね。イヤらしいにもほどがある」

 ものの3秒で閉じられてしまったため、あまりよく見えなかったけど、男の人の名前がずらっと並んでいたように見受けられた。もしや、人妻の旦那さんたちの名前だったりするのかな?

「せやろ? これ集めるのにえらい苦労したんやで」

「だからロックをかけますよ。マル秘情報なのに、そのまま閲覧できるとか、マジでありえねぇ」

「そんなめんどいこと、せんといてぇな。いちいちロック解除するのダルい!」

「アンタの性癖と合致する人間が、コレを見たらどうする? 絶対クリックしまくるに決まってるだろ。考えが浅はかなんだよ」

 ロックするための作業をしてるのか、松本さんの指がものすごい速さで、なにかを打ち込んでいく。

「僕もアホやないで。クリックしてもそれ以上見えんようにしとるし、万が一のときのことを考えて、ちゃーんとバックアップもしとる! それにエサは多いほうが、証拠が残りやすいやろ?」

「なんだかなぁ……」