フタリノ彼氏




いつもと同じ部屋。いつもと同じ香り。いつもと同じ人。いつもと違う光景。

私が体験した不思議な話。この話は本当に不思議な話だったので覚えてる範囲でここに書いてみます。

私は今から約3ヶ月前に付き合い始めた大好きな彼氏の家に泊まっていました。何の変哲もない1日でした。その日も幸せで在り来りな事。二人でテレビを見たり一緒にご飯を食べて幸せな夜を2人で過ごしました。本当に幸せな時間を過ごしていました。二人で一緒の布団に入りずっとこんな日が続けばと願っていました。
 
 それが朝起きたら3人になっていました。私はまだ理解出来ません。彼氏が2人います。何故でしょう。

1人は怯え。1人は私を抱き締めています。現状を理解出来ない。寝ぼけているのでしょうか夢を見ているのでしょうか。
昨日までは1人だけだったのに。

「お前誰?」
私を抱えてる彼氏が怯えてる彼氏に聞いた。抱えてる方も声は震えていた。
「蒼太だよ、お前ら誰だよ、立花さん?立花さんだよね?何してるの?」
「俺が蒼太だよ、なんだよこれ、何で俺がいるんだよ」
「は?俺が俺だよ、お前誰だよ、マジで意味わからん」
もう1人の彼氏は息を大きくしていた。私はただ二人の後ろで震えていました。
「落ち着けよ」
「落ち着けるかよ、警察呼ぶわ」
「待てよ、警察呼んでなんて説明するんだよ、取り敢えず落ち着いて考えようよ」
無言が3人を包み込む。何分くらいたったのだろうか、それはとても長く感じた。二人の彼氏は一人はベットの上、一人は椅子の上に座っていた。私は彼の隣に座りその二人様子をじっと見つめていました。
「何が起きたんだよ、まず立花さんは何してるの?」
「何してるのって、昨日泊まってそのまま一緒に寝たからそのまま」
「え、俺と立花さんが?何で?」
「何でって恋人だし」
「え、いや、違う」
彼は気が動転しているのだろうか私と昨日一緒にいた事を忘れているようでした。
「昨日は映画を見て、一緒に寝た。俺が本物だ。俺が本物だ。」
もう一人の彼は一点を見つめながら小言を繰り返していた。彼も気が動転しているのでしょう。私も焦りはあるが二人を落ち着かせなければいけない。私はキッチンに行き三人分のコーヒーを沸かせる事にしました。
 その間も二人は黙り込んでいた。
「立花さん何でコーヒーの場所知ってるの?」
「だって何度も来てるから」
「俺と立花さんが?分からない。やっぱりおかしい」
「俺とな。お前じゃない、俺と遥が付き合っているんだ。何度もコーヒーを作ってもらった。俺が本物だ。」
「まってちょっと、すぐにわくから、一旦落ち着いて」
はあ、二人同時にため息をこぼす。やはり二人とも蒼太だ。私の中の恐怖は少しづつ消えていて好奇心の様なものがじわじわと湧いていた。椅子に座っている方の蒼太は確実に私の知っている蒼太で昨日までの蒼太だ。そのおかげもあり安心感もあった。
湯気が立つ。コーヒーを二人の元に置きにいった。
「いったいどうなってんだ、現実なのかまだ理解出来てない、どうしたらいんだ」
私の知っている方の彼氏は私の腕を組み少し怯えている。こんな時でも私は彼を可愛いと思ってしまった。
もう一人の彼は布団を半分被ったままベットから動こうとしない。何でこっちの彼は私の事を知らないのだろう。いや名前は知っているようだ。だが仰々しく苗字で呼んでくる。
「いつから付き合っているの?」
「いつからってイルミネーションを見に行った時だよ、自分に質問されるの気持ち悪いな」
「自分に質問するのも気持ち悪いよ」
 二人とも機嫌が悪い。一触即発しそうだった。私が何とか間に入り上手く中和しないといけないと本能的に感じました。
「もっと本人しか知らない質問すればいんじゃない?」
「あ、ああ、そうだな、誕生日は?」
「7月22日」
「正解」
「血液型は?」
「A型だよ」
「正解、はあ、どうでしよう、思いつかないな」
「ちょっとまて次は俺に質問させろよ」
「あ、ああ、いいよ」
「母親の名前は?」
「聖子だよ」
「正解」
「父親の名前は?」
「正樹」
「正解」
「ちょっと二人とも何か調べれば出来そうな質問ばっかりじゃんもっと何か無いの?」
二人は同時にコーヒーをすすった。少し考える。
「はじめて見た映画は?」
「ゴジラだよ、他の怪獣がいっぱい出るやつ、あの、ほら名前は出ないけど」
「んー、正解だ、これは本当に俺かもしれない」
また二人は同時にコーヒーを飲んだ。
私はそんな姿が愛おしく思えて笑えてきた。
「立花さんは何してるの?」
「何してるのって昨日から一緒にいたじゃん」
「どうしても思い出せない、やっぱり変だよ、立花さんがいるのは、俺がいるのも変だけど」
「何で私の事を覚えないの?」
「いや立花さんは知ってる。仕事で一緒じゃん、でも付き合ったりはしていない、うちの場所も知らないし、コーヒーの場所も知らない。俺に彼女もいない」
「やっぱり偽物だな、俺が告白してほぼ毎週彼女はうちに来てくれたし何度もコーヒーを沸かしてくれた、料理も作ってくれたじゃん」
 本物の蒼太は優しかった。偽物の蒼太は私と過ごした日々を全く覚えていなかった。悲しかったです。蒼太が何人いても私を知らない蒼太がいるのは傷つきました。少しづつ涙が出てきました。私は蒼太の事をこんなに知っているのに全く理解が出来ませんでした。蒼太なのに蒼太じゃない彼をじっと見つめる。彼は怯えた目でこっちを見ている。
「動くなよ」
「何でそんな事言うの」
「近寄るなよ」 
「大丈夫だよ怖がらないで」 
 彼は布団にくるまりながらじっと睨みつけてくる。それは小動物にも見えるし肉食動物にも見える。とても恐ろし目だ。警戒と不安が混じり合い攻撃的な表情をしていた。荒い息だけがこの沈黙の部屋に響いていた。
「気を付けて」
「うん。大丈夫」
「出ていけよ、出ていけよ」
彼が怒鳴る。部屋に響くその声は私を一瞬怯ませた。
「俺の部屋だからお前が出ていけよ」
「いいから出ていけよ」
 彼は勢いよく起き上がり私を力いっぱい突き飛ばした。私は床に座り込むしか無かった。
そして彼と彼は同じ服を掴み合い。お互い引っ張り合う。お互い同じ力なのか全く微動だにしない。
「遥助けて」
 彼が叫ぶ。私は慌てて何か彼の助けになる物を必死に探した。私はテーブルの上にあった灰皿で彼の頭を力いっぱい殴った。
「うっ」
 彼は苦しそうに死ながらも私の彼に鬼の形相でしがみつく。
「遥もう1回」
 私は彼を守るために彼を殴った。ドンと硬いもの同士が重なる鈍い音が響く。力が抜け膝から崩れ落ちる。それでも彼は必死に抵抗する。私は狂気の中無我夢中でガラスの灰皿を振り下ろし続けた。
 
 そこから私は意識を無くした。私は気が着くとそこに彼が一人。赤と黒の混ざった液体を零しながら白目を半分開けていた。ピクピクと痙攣している。私は灰皿を手に取り偽物の彼に口付けをした。
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