ストロベリー・バレンタイン
 その日の昼休み。

 私は友達二人と、家庭科室の中で昼食を摂っていた。

「…それでそれで?」

 花梨(かりん)は箸を仕舞ながら、ワクワクした様子で私に聞いてきた。

「…それだけ。先生が教室に入って来て、ホームルームが始まっちゃったの」

 私は食べ終わったお弁当の箱を片付けながら、あっさりと答えた。

「柏葉君の返事は?…チョコは受け取ってくれたんでしょう?」

 (あんず)は口に黄色のタオルハンカチをくわえながら、私たちが座っていたテーブルのすぐ横にある水道で手を洗った。洗いたい時にすぐに手を洗えるので、家庭科室の中というのは、とても便利である。

「まだ」

 二人は同時に私をキッと見つめた。

「あ~もう!!」
 花梨は声を上げた。

「まどろっこしい!3年間同じクラスだったのに苺は、華の高校生活を何だと思ってるの?!」

 杏も頷いた。

「私達もうすぐ高校卒業だよ?…卒業したらジ・ENDなのよ?」

 青春ってのは、ホントに短くて儚いの!と、花梨は私に向かって、やれやれとため息をついた。

「…そうは言っても」

 今すぐ返事を聞かせて下さい。

 とは、とても言えないし…。

 花梨と杏には、他校にとびっきり素敵な彼氏がいる。幸せのおすそ分けをしてくれるため、今回の私の告白にはシナリオ含め、全面的に協力をしてくれていた。

「朝っぱらから教室の中で派手に告白した勇気だけでも、褒めて欲しいな…」

 考えてみたら、すごく迷惑で恥ずかしかったろうな、柏葉君。

 みんなの前で大々的に、あんな風に告白なんかされてしまって…。

 うんうん、なかなか偉かった、よしよし、あんたにしてはよくやった、と二人は私の頭を撫でてくれているが。

「やって良かったでしょ?朝の公開告白!」

 花梨はカールがかった紅茶色の髪を揺らしながら、にやにやと笑った。

「…わかんないよ、返事待ちだし…。クラスの女子達からは、恐ろしく白い目で見られちゃって…。生きた心地しなかった」

「それでいいの、何事も先制攻撃よ。敵よりも早く考えて動く、これ戦いの鉄則!」

 歴史好きの黒髪美少女・杏が、ギラついた声色で締めくくる。
 
 戦国武将じゃ無いんだから。


 その時。


 家庭科室のドアが、ガラッと空いた。


 中へ入って来たのは、
 私の想い人。


 氷の王子、柏葉樹君だった。



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