終わったはずの恋だった。
終わったはずの恋だった。

穏やかな春の昼下がり。
池原満生(いけはらみつき)はカップに入れたコーヒーを片手に欠伸を噛み殺していた。

「まだかなぁ。佐倉っち」

満生が所属する研究室の先輩、飯田(いいだ)が大きく伸びをしてぼやいた。修士1年生の彼は3月に入り本格化した就職活動に忙しそうで、今も机上には履歴書と黒色ボールペンが置かれている。しかし、三月の日差しはポカポカと暖かいせいか、それとも満生と同じ期待と不安に入り混じった感情のせいか、一向に捗っていない。

「ボチボチ来る時間ですかね」
「たぶんな」

ちなみに飯田が先程ぼやいた「佐倉っち」とは満生と飯田が所属する研究室のボスのこと。細くスレンダーな体とショートカットの整えられた髪が特徴の美人な助教だ。

松坂大学 理学部 応用化学科の教員団の紅一点である。

満生はそんな佐倉のお出ましを待ちながら、ドキドキハラハラと胸を躍らせていた。

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