With you~駆け抜けた時・高1 春&夏編~
練習が始まった。ブルペンでは、相変わらずの黄色い声援を受けながら、白鳥くんが、村井先輩を相手に快速球を投げ込んでいる。


「相変わらず、いい球を投げる。とても1年生のボールとは思えん。」


私がブルペンのポリタンクを確認していると、監督が現れ、独りごちるように言った。


「木本。」


「はい。」


「お前なら、どっちをエースにする?」


「えっ?」


「白鳥と星、どっちに背番号1を与える?」


監督に問われて、私は言葉に詰まる。


高校野球において、背番号1はエースナンバー。そのチームの文字通りの大黒柱であり、中心。誰でも憧れるナンバーだ。そして今、明協では、その番号は星さんが背負っている。先日の練習試合でもそうだった。


「エースは星先輩・・・じゃないんですか?」


思わず、そう聞いていた。そう言った私の顔を見た監督は


「じゃ、木本は白鳥より星の方がいいピッチャーだと思っているのか?」


と尋ねてくる。


「それは・・・でも星さんは3年生ですし、白鳥くんはまだ1年生ですから。」


「確かに星の方が学年は上だ。ただそうなると、この夏で星が引退したあとのエースは2年生の関口ということになる。白鳥は関口がいなくなるまで、背番号1はお預けだ。」


「・・・。」


「正直だな。」


言葉を失ってる私に、監督は笑う。


「さすがに関口より白鳥が下とは、お前も思えないだろう。」


「は、はい・・・。」


先輩に失礼な気がして、私は遠慮がちに答える。


「それでいいんだ。」


「えっ?」


「グラウンドに立てば、学年とか年齢は関係ない。力があるものが勝つ。それがスポ-ツ、野球だ。」


「・・・。」


「最初に問いに戻れば、星と白鳥、現時点では甲乙つけ難いと思っている。確かに球のスピ-ドは白鳥の方が上だ。神奈川の中でも上位に入るだろう、末恐ろしい1年生だ。」


「はい。」


「だが、ピッチャ-の優劣はスピ-ドだけでは決まらない。変化球のコントロ-ル、キレそして経験という面では、やはり星に一日の長がある。それに白鳥は右、星は左、投げ方も違う。あとは奴らがグラウンドでどういう結果を出すか?これから2ヶ月の俺の仕事は、それを見極めることだ。現時点で、俺の中でレギュラ-当確はキャッチャ-の西だけ。あとは、本当に白紙だ。木本、お前もそのつもりで見ていてくれ。」


「わかりました。」


白鳥くんと星さんにじっと視線を向ける監督の横で、私は頷いていた。
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