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ハルが出張から帰宅する前日、私は二ノ宮グループの本部がある二ノ宮総合病院と同じ敷地内にある事務棟のとある部屋に奇襲攻撃をかけていた。

「逃がさないわよ」

私の勢いにその人は諦めたように肩をすくめた。

「そのうち来ると思ってたよ、とりあえず座ってお茶でも飲めば?」

「よくもまあ可愛い妹からの着信もメールも延々と無視してくれたよね」

私がぎろりと睨みつけてもちっとも悪いと思ってないのだろう。

「可愛いかどうかはともかくとして確かに水音からの連絡を全スルーしたのは悪かった。だからとりあえず座れ」

高そうなスーツ姿のこのオトコは昨年二ノ宮グループの理事になった私の実兄だ。
彼はドアの前に控えめに立っている秘書さんにお茶を頼むと私に目の前の高級ソファーに座るように目で示した。

「どうして私の連絡を無視したのよ。お母さんに勝手にアパートから荷物運ばれちゃって強引にハルの家に同居することになったの知らなかったわけじゃないでしょ。おまけにずっと出張中だとか秘書室の人にも嘘つかせて」
思い切り兄の暁人を睨みつけた。

「ああするしかなかったんだよ。じゃなかったらお前俺んちに押しかけてきただろーが」

「行くつもりだったわよ、当然でしょ。実家の鍵変えられて実家には戻れない、親友は新婚で泊りにいけない、職場の人にも迷惑はかけられないし、残るは実の兄のところしかないんだもん」

むううーっとうなると
「だからスルーしたんだよ」
兄はしれっとした顔で秘書さんが持ってきてくれたお葉を口に運んだ。

「もしかしてこの6年間ずっとハルと連絡を取り合ってたの?」

私にはハルが何してるか知らないって言っておいて、連絡を取り合っていたに違いない。

「それも当り」

「何で私に嘘ついてたのよ!?」

イライラが募る私に兄は冷静だ。その態度が余計に腹が立つ。

「治臣に口止めされてたし」

もう、ホントにムカつく。

「引っ越しも当然だろ、あのアパートは危険だって。俺のマンションだとお前の職場まで遠いし、治臣がお前のこと引き取ってくれるって言ったからアイツならいいかと思って」

「何でそう言う発想になるのかがわからないーーー」

「今一緒に暮らしていて何か不満でもあるのか?治臣に喰われたとか、治臣のいびきがうるさいとか、治臣の寝相が悪いとか」

「な、なんで全部前提がハルと一緒に寝てるいることになってるの」

「は?寝てないのか?」

「寝てないわよ!!!!」

バッカじゃないのー
話が通じない。
実の兄なのに。