"さよなら"には早すぎて、"はじめまして"には遅すぎる

これは頑張っちゃいけないやつ。



まぁ、頑張ると言っても特に何か行動できるわけでもない。

会った時に挨拶する。
庭の大根の成長の話をする。

たったそれ位のもので、相変わらずそんな日々だ。


「文化祭に誘ってみたら〜?」

そんなこと、思いつきもしなかった。たまに大学の話もするし、何ならこの前その話題を出したのに。


午前の講義で今日は終了だが、今日はバイトがある為、バイトまでの待ち時間を食堂で潰していたら千葉崎がたまたまやってきた。

千葉崎はこれから彼女と会う約束があるようでその時間潰し。

サークル以外で会うのは珍しいので最近あったことを話しているうちに、琴音との話になって今に至る。


その手があったか、と千葉崎を感心した目で見るが。

「あ、ダメだ。学部の奴らと一緒に回るんだった」

先約を思い出してガックリと項垂れる。


「いやいや、お兄さん。流石に一緒に回るのは一足飛びに隣人の枠を突破しちゃってますよ?」

「じゃあ、何で誘うんだよ?」

やれやれと言うように手と首を動かす千葉崎には多少イラッとしつつ、大人しく話を聞く。

「君の学部も何かしらの出し物してるでしょ〜よ?一枚噛んでんだったら手伝ってる時に来て貰えばいいし、手伝ってる時に来るのが無理そうなら無料券渡しておいたらいいじゃん。それが次の会話になる」

「お前すごいな。それ採用するわ」

流石としか言えない。
彼女持ちのくせにモテる所以が分かる。

こんなに巧妙な男の彼女は心配にならないのだろうか、と思うがこの男、ちゃらけている割には彼女一筋。

恐らく彼女を心配させない様な手口があるんだろう。


「で〜?ゆ〜君は何の出し物をして、いつ手伝うわけ?売り上げに貢献してあげるよ」

「げっ、それ、絶対に冷やかしに来るやつだろ。……まぁ、いいけど。ワッフルだよ。ただし、生クリームとかフルーツとか乗ってる方な。違う店舗のは抹茶とかチョコとかワッフルの生地が違う方だから。手伝いは最終日の午前。ミスコン発表前くらいまで」

「ワッフル!めちゃくちゃ女子受けじゃん」

「男ばっかの学部だからな。少数女子が納得して、男どものナンパに繋がるものってなってそうなった」

「なるほどね。あ、俺のはまたメッセ送る〜。彼女来たみたいだから行くわ。健闘を祈ってるぞ〜」


スマホの画面を素早く打ち、ひらひらと手を振り、去っていく。

彼女から連絡が来てから返信するまでの時間は恐らく五秒もなかった。


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