転生人魚姫はごはんが食べたい!
港町食べ歩き
 朝日が昇るなり、私の目覚めは爽快だった。太陽が昇る感覚と同時に目が覚め、カーテンを開ければ空と海の境目から光が差し出す瞬間に立ち会うことが出来た。

「凄いわオーシャンビュー!」

 夜は暗くて何も見えなかったけれど、見渡す限りに広がる一面の海は絶景だ。この海が続く先には私が生まれ育った故郷も在る。どこかで繋がっていると思えたことで、少しだけ家族と離れた寂しさは薄れていった。
 やがてきらきらと輝きを放つ海に人影を見つけ、私は窓を開けると大きく手を振った。
 嫁入りの翌日、日の出の時刻に海に向けて手を振ること。この合図があれば私は不自由なく暮らせているという知らせになる。
 私の無事を確認した人魚は手を振り返して姿を消した。きっと彼女が家族や友人たちに私の無事を伝えてくれるはずだ。

「それにしてもなんて好待遇なの……」

 改めて自身に宛てがわれた室内を見渡してみると一人で使うには勿体ないほどの内装だ。
 一人で寝るには勿体ないほどの面積を誇るベッドはもちろん天蓋付きで、そんなベッドを置いても余裕あり余る部屋の天井は手が届かないにほど高い。壁紙から調度品の細部に至るまで高級そうな家具が顔を揃えている。

「柔らかなベッド、ふかふかのソファー、一流の調度品。これって……」

 旦那様は誠心誠意、私たちとの約束を守ってくれた。

「奥様! おはようございます」

 こうして私を起こしに来てくれるニナの存在もそう。
 前世でワンルームのアパートに一人暮らしをしていた私には、ちょっと感覚が追いつかない。家賃換算したらいくらになるのか……止めておこう。怖くなってすぐに計算することを放棄した。

「おはよう」

「奥様、もうお目覚めなんですね!」

「なんだか目が冴えてしまったのよ」

「凄いです! 私なんていつも夜更かしをしてしまって、毎日朝が大変で」

「そうなの?」

「仕事仲間たちとつい遅くまで話してしまうんです」

「まあ! 恋についてのお話でもしているのかしら」
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