触れたい指先、触れられない心


 連れられたお店は、とても賑やかな場所だった。
 ノリの良いEDMが大音量で流れ、人が大勢いて……


 ここなら、嫌な記憶を忘れられそうな気がして……






「んで、そのクズ男に振られたって訳?」


 相槌を打ちながらビーフジャーキーをお酒で飲み流すのは、さっきわたしの手を引いてくれた男子。


「わたしのことね、好きって言ってきたのあっちなの。それで付き合ったのに……本当にありえないよね!」
「まぁ、そんな男だって早めに分かってよかったって考えようぜ?」

 物は言いようってよく聞くけど……そんな簡単に納得できるような話じゃないと思うんだけど……。
 いつまでも引きずるなって励ましてくれてるんだろうけど。


「ほら、飲もうぜ。飲んで忘れようぜ?」

 
 そして男子はわたしにジョッキを差し出した。
 ピンク色の可愛いお酒。


 本当は未成年だけど……



「いただきますっ……!」


 ひとくち、コクリと口に含む。


 初めて飲んだお酒は、少し苦くて心が痛くなった。



 わたしの傷ついた心にひどくしみる。
 気持ち悪い、こんなのおいしくない……そう思うのに、早くこの記憶を消したいのか、お酒を求める手が止まらない。


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