触れたい指先、触れられない心

▼冷たい目をした人▼




 ◇◆◇



 耳元で聞こえる物音。

 妙に重たい瞼をこじ開けようとした。




「んっ……いった……」


 まるで殴られたかのように頭が痛い。
 そして両腕に違和感……



 ハッと目を開くと、見知らぬ場所にいた。


 それだけじゃない、両腕を縛られていて身動きが取れない。
 

 一体ここは……

「……?!」



 そうだ、昨日……失恋のショックでよく分かんないバーに連れてかれてそれから……


 えっと……



 記憶がない……あれからわたしどうしたんだろう。


 いや、普通に考えてお酒飲んだから記憶がないんだろうけど、縛られてるってことは……これからよからぬことが起きる。ってことだよね?



 身動きが取れないとどうしようもないけど、とりあえず辺りを見渡してみる。
 


 錆だらけのベッドに、黒ずんで破れたカーテン。
 落書きだらけの壁……どうみても廃墟。


 わたし、下手したら殺されるんじゃ……




 そう思い、足元に視線を落とすと、一人の男性が倒れていた。


 見た感じ二十代くらいで、綺麗に伸ばした黒髪が特徴的なとても顔立ちの良い男性。


 さっきのわたしのように、気を失っているみたい。




「あの! 起きて下さい……!」

 両手が使えないから声をかける以外に方法はない。
 わたしは大声で呼びかけた。


 あ……しまった。

 見張りの人とかいたらバレちゃう……!




「ん……お前は……」
「わたしは、如月詩音っていいます! ……じゃなくて、ここはどこですか?」
「そんな事、俺が知るはずない」


 確かに。

 この人もわたしと同じで……


「まぁいい……これで俺の縄を切ってはくれないか?」

 そう言って、ポケットからナイフを取り出し、わたしの方へ差し出した。



「えっ、何でこんな物騒な物を持っているんですか!」

 そう言いながらも、わたしはその男性からナイフを受け取る。


 ってかこの男性……めちゃくちゃ綺麗な顔立ちだな……長い髪の毛も全然不潔じゃないし、逆にサラサラでうらやましい。キリッとした目元も、綺麗な瞳も……


 くぅ……こんな綺麗な男性にお願いされたら、聞くしかないじゃん。



 初めて持つ物騒なナイフに手が震える。


 白くて綺麗な腕に傷でもつけたら……
 

「ふっ……! き、切れました……」
「かたじけない、助かった」

 そう言うと、その男性はわたしの縄をいとも簡単に切ってみせた。


「あ、ありがとうございます……あの、あなたは一体……」
「覚えていないのか……?」


 覚えていないも何も、こんな綺麗な男性知り合いにいないはずなんだけど……


「昨夜、俺に無理やり口づけしたではないか」



 え……口づけって、キス……だよね?



「え……?」


< 4 / 84 >

この作品をシェア

pagetop