二度目の結婚は、溺愛から始まる
過去の傷、現在の痛み


「ごちそうさま」

「ありがとうございました」


最後の客を見送った征二さんが、ドアに「CLOSED」のサインを出すのを見届けて、わたしは大きく息を吐いた。


(つ、疲れた……)


当初は、お試しに一、二時間程度お手伝いをして帰るつもりだったが、夜シフトのアルバイトから風邪でダウンしたと連絡があり、結局閉店まで働くことになってしまった。

ほんの五時間程度で疲労困憊なのは、七年のブランクのせいも多少はあるが、主に征二さんの前で失敗はできないという緊張感のせいだ。

幸い、大きなミスをすることなく乗り切れたが、役に立ったと胸を張って言えるレベルには程遠かった。


「おつかれさま、椿ちゃん。突発的なことだったとはいえ、初日からコキ使っちゃって、ごめんね? 片づけはいいから、もう上がって」

「……大したお役に立てず、すみません」

「そんなことないよ! すごく助かった。ああ、でも……なし崩しでお願いしちゃったけれど、予定はなかったの?」

「あ……」


言われて初めて、蓮に何の連絡もしていないことに気がついた。
帰りは遅くなると聞いていたけれど、時間までは確かめていない。


(まあ、いい大人なんだし、そんなに心配はしていないだろうけれど……)


そんな軽い気持ちで鞄からスマホを取り出したわたしは、表示された蓮からの着信履歴とメッセージの数にぎょっとした。


(え……? 嘘っ!)


八時過ぎくらいから、ほぼ十分おきで電話の着信、メールやSNSのメッセージがある。


最初は「どこにいる?」という軽い質問だったのが、最後には「とにかく連絡をくれ」という悲痛な叫びになっていた。


「椿ちゃん? 大丈夫?」


スマホを手に固まるわたしを見て、征二さんが不審な顔をする。


「だ、大丈夫じゃないかもしれないです……」

「もしかして、雪柳さんと約束していた?」

「や、約束というか……」


じっと見つめられ、今後のことを考えても黙っているわけにはいかないと観念した。


「実は……いま、蓮と同居してるんです」

「え」

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