(疲れた……)


乗り継ぎを経て、日本へ到着したのは翌日の正午すぎ。

ようやくたどり着いた空港は、思ったよりも空いていた。
さほど待たずに預けたスーツケースをピックアップして、のろのろと到着ロビーへ出る。

六年ぶりの長距離フライトは、ファーストクラスを利用し、乗り継ぎで強張った身体を休めることができても、かなり辛かった。

年齢のせいもあるかもしれないが、二度の手術をした右足や腰が抗議するようにきしんでいる気がする。


(ちょっと休んでから、移動しよう)


迎えを寄越してもらえばよかったと後悔しながら、空いたベンチを探して周囲を見回したわたしは、視界の端に見覚えのある姿を捉え、硬直した。


(ま、さか……)


百八十センチを超える長身。

きれいに整えられた黒髪、凛々しい直線的な眉。
涼しげな切れ長の目。
悠々とした足取りは、自信に満ちていて、自然と人の目を惹きつける。

身体にぴったりと合った仕立てのいいスーツ姿は、いかにも仕事ができる男だ。


記憶にある姿と変わらない。


雪柳 蓮。


七年前に別れた夫が、そこにいた。


(な、んで……こんなところで……?)


一日に、この空港を利用する人の数は十万人を超える。
何百もの飛行機がやって来ては、飛び立っていく。
そんな中で、知った顔とすれ違う確率はどれくらいだろうと考えかけ、ハッとした。


(ぼんやり見惚れている場合じゃない!)


いつか、どこかで再会することはあるかもしれないと思っていたけれど、心の準備もないままに、会いたくない。

とにかく、気づかれる前に立ち去ろうと、慌てて身を翻した拍子に、後ろから来た人に体当たりした。


「きゃっ」


相手は、アメフトの選手並みに体格のいい外国人男性。たまらず弾き飛ばされて、尻餅をつく。


『オウッ! ソーリー』


大丈夫かと早口で尋ねられ、曖昧な笑みと共に大丈夫だとジェスチャーで伝える。

ぶつかった相手がお年寄りや子どもでなかったのは幸いだが、まともに冷たい床に打ち付けたお尻が痛い。


(……痛い……痛いけど……)


いつまでも座り込んでいたら、騒ぎになってしまう。
とにかく立ち上がろうと痛みを堪えて歯を食いしばった時、目の前に大きな手が差し出された。


「あの、大丈夫ですか……ら……」


親切な人だと思いながら、断りの言葉を口にしようとして声を失う。


「大丈夫じゃないだろう? 相変わらず、素直じゃないな」


眉根を寄せ、険しい顔でこちらを見下ろし、わたしを抱き上げたのは――、





元夫だった。