帰国の翌日。

祖父が無事退院するのを見届けたわたしは、カフェの共同経営者である涼と愛華に帰国の報告をした。

六年前、オープンして間もなかったカフェの経営を二人に丸投げして、わたしは日本を離れた。
資金援助やバリスタとしてのアドバイスなどは続けていたものの、実際には何の役にも立てていないに等しい。

それでも、二人はわたしがいつか戻る日が来ると信じてくれていた。

日本に戻るのか、むこうで暮らすのか。
柾に言われたように、はっきりさせるべきだった。


置き去りにした過去と向き合う潮時だった。


******



帰国を報告したその日のうちに、涼と愛華は学生時代に「理想のカフェ」について語り合った居酒屋で、再会を祝おうと言い出した。


(まるで別の店なんだもの。わからなくて当然よ……)


レトロな雰囲気がお気に入りだった居酒屋は、周囲の様子も店舗の外観も大きく変わり、おしゃれな店になっていて、それと気づかずウロウロしたわたしは、約束の時間に遅れてしまった。


「ごめん! 遅れて」


店員に案内された個室では、涼と愛華がわたしを待たずに飲み始めていた。


「おかえりー、椿!」

「六年も帰って来ないなんて、この薄情者!」


立ち上がった二人と代わる代わるハグをして、お互いそんなに変わっていないと見え透いたお世辞を言い合う。


「どうぞどうぞ、姫は奥へ」


勝手に生ビールを頼まれ、奥の席へと押し込まれた。


「それで……椿のお祖父さまは、大丈夫なの?」

「おかげさまで。母が、大げさに騒いでいただけで、検査入院だったわ」

「そっか。よかったな?」

「うん。ほっとしたわ。無事、今日退院したしね」


手短に突然の帰国の経緯を説明し、この六年、言えずにいたことを告げる。


「まずは……ごめん、そしてありがとう。涼、愛華。二人がいてくれなかったら『TSUBAKI』はとっくに閉店していたと思う。感謝してもしきれないわ」

「そうだそうだ! 感謝しろよ!」


涼は偉そうにそう言ったが、愛華にやり込められる。


「涼! あんたは、ほとんど何もしてないじゃないの! 経営はぜんぶわたしまかせ。思いつきで行動するだけのくせに!」

「でも、その思いつきのおかげで、蒼といい仕事ができただろ?」

「ぜんぶ蒼のおかげじゃないの! あんたの無茶ぶりのせいで、蒼は本当に大変だったんだからね?」

「……反省してます」


相変わらずの二人のやり取りに、笑ってしまう。


「蒼と言えば……結婚するんだってね?」

「そうよ! あの子が結婚なんて、びっくりよね? 椿にも招待状来たの?」

「うん。無茶な依頼付き」

「わたしたちにも、ドリンクの依頼が来たんだけどさ……」

「……もしかして、『猫ラテ』?」

「そう、『猫ラテ』! 蒼ってば、お嫁さんを溺愛してるみたいよ。緑川くんによれば、お嫁さん専用ブランドまであるんだって。全部非売品」


昔から、蒼は夢中になると脇目もふらず、まっしぐらだった。
一度気に入ったら、手放さない。
きっと、暑苦しいくらい「嫁」にまとわりついているのだろう。


「どんな人なのか気になるわね。蒼の好み」


大学時代の蒼は、それはそれはモテていたし、女友だちも多かったが、わたしが知る限り、彼女らしき存在はいなかった。

幼馴染である緑川くんと四六時中一緒。
あまりにも仲が良いので、実は女性ではなく男性が好きなのではないかという噂が立ったこともあるくらいだ。


「わたしも興味あるんだけど……確か、涼は蒼のお嫁さんに会ったことあるのよね?」

「ああ。年上のイイ女だよ。蒼にはもったいないくらい」

「年上?」