幸せにしたいのは君だけ
9.どうしても好きな人
「佳奈ちゃん! 大丈夫?」


車から降りると、白のロングニットワンピースに厚手のストールを羽織った澪さんが駆け寄ってきた。

垂れ目がちの二重の目が心配そうに私を見つめる。


「だ、大丈夫です。すみません、こんな時間に……しかも副社長に送っていただいて」

「そんなの気にしないで。大事な後輩の一大事だもの」

「でも……」

「いいから、寒いし疲れたでしょう? ほら遠慮せずに中に入って」

「澪、こんな時間にひとりで外に出るな。危ないだろう」


車から降りてきた副社長が、眉間に皺を寄せる。


「実家の家の前は外ではないわ。遥さん、心配しすぎよ。佳奈ちゃんを送ってきてくれてありがとう」

「……圭太には借りがあるからな」

「そうね、桃子さんの時に助けてもらったもの」


副社長夫妻は仲良さげに言葉を交わす。

話の展開が見えない。


「あの、澪さん……?」

「ああ、気にしないで。後で話すから」


にっこりと口元を綻ばせる澪さん。


「俺はアイツに会ってくる。さっきから何度も電話がかかってきているからな」

「もう少し焦らしてもよかったんだけど。可愛い後輩を泣かせたんだから。まったく本命にはこんなに情けないなんて」

「……澪」

「わかってる。お願いね、遥さん」


ほんの少し不服そうに澪さんが返事をする。

副社長は困ったように片眉を下げる。
< 168 / 210 >

この作品をシェア

pagetop