策士な御曹司は真摯に愛を乞う
乗り越えるべき試練
その夜、彼は執拗なほど強引に、私を求めた。
何度果てても、解放してもらえない。
絶え間ない快感で理性は吹っ飛び、身体にはまったく力が入らない。


夢と現の狭間を行ったり来たりする意識下で、私はシーツに手を這わせ、彼の腕から逃げようとした。
だけど、許されない。
私の背中に覆い被さった夏芽さんが、後ろから強く胸を揉みしだく。


「あああっ……」


私はガクッとベッドに突っ伏した。
それでも、逃がしはしないというように、身体に絡みつく腕の力は揺るがない。


「美雨、美雨っ……」


何故だろう。
強く激しく抱かれているのに、まるで縋られているような感覚に陥る。
縋られている……ああ、そうか。
断続的に、辛うじて繋がる意識の中で、私はそう納得していた。
昼間、多香子さんから言われた辛辣な言葉が、夏芽さんの心に深く巣食っていたんだろう。


『彼女が覚えてないのをいいことに、だらしなく縋るなんて。最低な男』


そう言えば、病院でも彼女は似たような罵声を彼に浴びせていた――。
多分、夏芽さんにそうさせているのは私だ。
わかっているから、今は彼から逃げたくない。


「あっ……夏芽さ、ま、って」


狂おしいほどの恋情に応えたいから、途切れ途切れの声で懇願する。


「逃げな、から……私、もう、逃げたり、しな……」


私の耳元で、夏芽さんがハッと息をのむ音を聞いた気がした。


「美雨……?」

「もう、逃げな……」


自分でも、もうなにを言っているのかわからない。
ただ、譫言のように繰り返し、最後は意識を手放した。
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