忍び恋の乱〜出会った貴方は酷い男,それでも貴方が愛しくて。
第一章

第一話 運命の依頼

 朝日が登り、里の村を少しずつ明るく照らし出す。

 山奥に構える隠れ里は並の人間では気づけない程巧妙に隠されている。
里の裏は竹林に囲まれ迷路のようになっており。そこは里に住う忍び達の稽古場として使われている。

ストンッストンッと何か鋭利な刃物が竹に刺さる音が竹林から微かに響く。


まだ日も上がって間もないのに一人の女性が鍛錬に励んでいた。


晩春だが竹と竹の合間から心地よく吹き上げる春風が彼女の黒髪をなびかせると同時に竹の葉達をざわざわと音立たせる。

的が刻み込まれた竹身に確に刺さるクナイを抜き取り。回収していたら、汗に濡れた肌に風があたって彼女は少し身震いし。そろそろ里に戻る事にした。




「ヒヨちゃん、おはようさん。今朝も鍛錬に行ったのかい?」

里の帰り道で、くわを持ち畑仕事の帰りに見える年降りのお爺さんと出会い。
彼は文爺という幼い頃の馴染でよくこの老夫婦のお家に遊びに行っていた。


「おはようさん、文爺今日も朝からご苦労さまです。」

「ハッハハありがとさん、そういや伊十郎様からお呼び出しがあったそうじゃよ?新たな依頼じゃろう?」


伊十郎様はこの「霧隠れの里」の里長で。代々里の長を務める霧里家の第十一代目、つまり里の忍びを纏める頭である


「分かった、家に戻って着替えたらすぐに向かうよ。伝えくれてありがとう文爺。行ってくるね」

文爺は「気お付けて行けよ」を伝えるつもりだったが,頭文字の「気」を言うか言わないかの前に。里の#長__おさ__#、伊十郎様からのお呼びを受けたと聞いたヒヨは駆け足で風となって去ってしまった。


「ありゃーまた言いそびれたなぁ」


そして文爺はのんびり田んぼの風景を眺めながら家路へ辿った。


**********


<霧里の屋敷>


 私は汗を流し濡れてしまった着物を清潔の装いに着替え、廊を歩き奥座敷のふすま前で正座し待機した。


すると間もなくして、霧里の家紋である蝶が絵描かれたふすまがゆっくりと横へ開いた



「待たせたな。中へ入れ」


 ふすまが開いたと同時に中年男性の低い声が聞こえて来た。中へ入りふすまを閉じて再び目の前に胡座をかぎながらこちらを見添える男性に面と向かい正座する。


男性は菫色の長着に黒の羽織りを羽織って、長い癖っ毛の髪を一括りにせず一房だけ横に赤い結紐で縛り付けている。


「伊十郎様。私をお呼びと聞きました。」


「よく来たな。今朝日ノ岳(ひのだけ)城から密書が届いた。依頼を受け賜ったが、相手が相手だから。この依頼を受けるかはお前に委ねる」


そう言って深紫の瞳が私の決断を待った。


「伊十郎様が厄介だと思われる相手とは何方なのかお伺いしても?それと宜しければ依頼内容もお伺いしたいです」

「分かった、話そう。お前は最近天下に最も近いと噂になっている武将を知っているか?」


 この日の国最近噂になっている武将は確か戦場で戦う姿たが鬼の如く怖く。魔王とまで呼ばれている高御ノ八房(たかみのやつふさ)様が近頃着々と領地を広げ力をつけていると、この前任務中で噂されるのを聞いた。


「はい。存じて上げます。」


「その高御ノ八房様の右腕であり参謀の「氷賀輝也(ひょうがてるなり)」様からの依頼だ。「変幻の術」が使える者を御所望で、依頼内容は城に辿り着いてから伝えると伝えられた。どうする?危険な任務かも知れんぞ?」


その依頼人の名を聞き少し考える。

智将-氷賀輝也
幼少期より高御ノ八房様のそばで仕えており、高御ノ様の幼馴染みであり信頼する臣下でもある。
そしてあまり人を側に近づけず。謎が多いい方だ。

依頼がわからないのは不安だが、直々に依頼して下さったのだ。この依頼を無下には出来ない。


「分かりました。受けます。里の信頼を崩す訳にはいけませんから」


そう困った顔をして答えを待ってくれている伊十郎様に答えたら、彼は少し申し訳なさそうな顔をし礼を言った


「すまない。今里で変幻の術を使えるのはお前と琴無に明里、最後にお前の師匠だけで。あいにく彼らは他の任務中で出払っている。受けてくれて感謝する」


伊十郎に礼を言われて慌てて言葉を返す


「礼など仰らないでくだい!伊十郎様は私たちの頭で、私達は貴方の決めた事には従うだけです」

毅然とした私を見た伊十郎は苦笑いしながら私の頭を優しく撫でた

「そんな淋しいことを言うな....。お前と琴無と明里三人は小さい頃から見てきた。お前は妹みたいなものだ。此度の依頼、なにが起こるか分からない。油断するな、そして決して心を許すな。例え相手に信を置いても情を抱くな。忍びが相手に情を抱けば的確な判断が出来なくなり。その結果身を滅ぼすだろう........だからヒヨ、どうあっても向こうの人間には特別な感情を抱くな。約束出来るか?」


いつにも増して真剣な眼差しで私を見つめる伊十郎の気迫に押され
思わずうなずいてしまった。



「分かりました....約束します。」


【決して向こうの人間に
 特別の情を抱かない】

  この約束を胸に

二日後、私は里を出て依頼主の居る日ノ岳城へ向かった。
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